管理組合からヤミ民泊ホストに対する損害賠償を認める判決
毎日新聞の報道によると、大阪市内の区分所有マンションでヤミ民泊ビジネスを実施していた区分所有者に対して当該マンション管理組合が区分所有者に対して損害賠償を請求していた民事訴訟で、原告勝訴の判決が出たようです。
ヤミ民泊ゲストによるゴミ放置や騒音を、他の区分所有者に対する民法709条の不法行為と認定した模様です。
民法第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
区分所有法による「停止請求」の訴訟は多数
マンションなどの区分所有建物(いわゆる分譲物件)においては、区分所有法に基づく停止請求が多数提起されています。
これは、区分所有法6条及び57条に基づき、「区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置」として実施されるものです。ここでいう「その行為を停止」とは、ヤミ民泊の停止にとどまります。すなわち、ヤミ民泊を止めるように求めることが出来るに留まります。
今回の訴訟で認められたのは「損害賠償」
上記の「停止請求」とは異なり、今回報道された訴訟では「損害賠償」が認められています。毎日新聞の記事にもあるように、分譲マンションの区分所有者に対して損害賠償を命じる判決は極めて異例です。
賃貸借契約では契約に定められた使い方以外で部屋を使うことは契約違反であり、ヤミ民泊による無断転貸を理由として損害賠償を命じるケースは多くあります。一方で、区分所有者はマンションの「所有者」なので、自分が所有するマンションの使い方によって他の区分所有者に対する不法行為が裁判所に認められるケースは稀です。
大阪・ミナミのマンション一室で外国人観光客らを泊める「民泊」を無断で営業したとして、マンション管理組合の理事長が部屋を所有していた男性に損害賠償などを求めた訴訟で、大阪地裁は13日、男性に50万円の賠償を命じる判決を言い渡した。池田聡介裁判官は、この民泊営業で起きたごみの放置や騒音トラブルが「他の住民への不法行為にあたる」との判断を示した。
毎日新聞
ヤミ民泊が社会的に大きな問題となり、本件物件が所在する大阪市でも特区民泊の開始に伴ってヤミ民泊の取締が強化されています。そのような社会情勢の中で、裁判所が厳しい姿勢を打ち出したことは注目に値します。今後も、ヤミ民泊を理由とした不法行為責任が認められる判決が続出するかもしれません。
ヤミ民泊の法的リスクは3種類
ヤミ民泊の法的リスクを検討する際に、一般の方が一番先に思いつくのが旅館業法の無許可営業でしょう。しかし、ヤミ民泊の法的リスクはこれだけに限られません。他にも多くのリスクが考えられます。
法的リスクを論じる際に大切なことは、法律上の責任は異なる次元で「3種類」あることを理解する点です。
- 刑事責任(無許可営業など)
- 民事責任(損害賠償責任など)
- 行政責任(営業停止など)
刑事責任は警察が動く
2016年には、旅館業許可を得ないで実施された「ヤミ民泊」に対して、警察による取締が多数実施されました。ニュースになったものも多く、世間でも注目されました。
警察が取り締まっている「無許可営業」は刑事責任についてのものであり、警察に摘発されないからと言って他の責任を負わない訳ではありません。
民事責任では賠償責任を負う
無許可営業など刑事責任について摘発されなかったとしても、今回の判決でも問題になった民事責任を追及される可能性は残ります。刑事訴訟については検察官が起訴を独占しているため(起訴独占主義)、私人は刑事訴訟の起訴を行うことはできません。
一方で、民事訴訟については権利者であれば誰でも訴訟を提起することができます。したがって、ヤミ民泊の不法行為によって損害を被ったと思う人は誰でもヤミ民泊ホストに対して訴訟を提起することができます。
ヤミ民泊の法的リスクについては民泊セミナーで詳しく解説しています。