民泊申請の「違法無資格代行業者」にご注意を!行政書士法改正で何が変わるのか

民泊業界に衝撃が走りました。2025年8月1日、読売新聞が報じたニュースによると、「民泊専門コンサルタント」を名乗る品川区のコンサルティング会社社長(32歳)が、大田区の特定認定書を偽造したとして有印公文書偽造・同行使容疑で書類送送されました。

この事件は、2025年6月に成立した行政書士法改正が、いかに必要な措置であったかを如実に示しています。国家資格を持った行政書士に依頼すると40万円程度かかるところを、無資格業者による格安での代行サービスに依頼することで、依頼者も含めて重大な法的リスクを背負う構造が浮き彫りになったのです。

実際に起きた公文書偽造事件の詳細

今回摘発された事件の詳細を見ると、無資格業者のリスクの深刻さが明確になります。逮捕された男性は2024年3月13日から22日にかけて、都内の民泊運営会社から特区民泊の運営に必要な申請手続きを請け負い、大田区が発行する「特定認定書」をパソコンで偽造し、区長の公印や区のロゴを貼り付けて本物に似せた書類を作成しました。

事件が発覚したのは、2024年6月に依頼主の民泊運営会社が大田区のホームページで認定施設として掲載されていないことに気付いたためです。その後、大田区が同年8月に警察に刑事告発し、今回の摘発に至りました。容疑者は「依頼主からせかされ、自分で作成した」と供述しており、警視庁大森署は起訴を求める「厳重処分」の意見を付けて書類送検しています。

この事件で特に重要なのは、民泊開業申請を代行する業者が摘発されるのは異例であり、無資格業者による代行業務がいかに危険な領域に踏み込んでいたかを示していることです。特区民泊は国家戦略特別区域法に基づく制度であり、その申請書類の偽造は重大な犯罪行為に該当します。

民泊運営に必要な書類を偽造したとして、警視庁大森署は1日、品川区に住むコンサルティング会社社長の男(32)を有印公文書偽造・同行使容疑で東京地検に書類送検した。訪日外国人客らに人気の民泊を巡り、開業申請を代行する業者が摘発されるのは異例。

 捜査関係者によると、男は昨年3月13~22日、都内の民泊運営会社から特区民泊の運営に必要な申請手続きを請け負った際、大田区が発行する「特定認定書」を偽造し、運営会社に渡した疑い。任意の調べに「依頼主からせかされ、自分で作成した」と供述している。

 男は自社のホームページで「民泊専門コンサルタント」をうたい、民泊の開業支援や申請手続きなどを代行していた。偽造した認定書はパソコンで作成し、本物に似せた文章に、区長の公印や区のロゴを貼り付けていたという。

 昨年6月、依頼主の民泊運営会社が区のホームページに認定施設として掲載されていないことに気付き、不正が発覚。区が同年8月、大森署に刑事告発していた。

読売新聞2025/08/02

民泊コンサルタント逮捕事件の先駆的意義

今回の公文書偽造事件は、民泊業界における無資格代行業務の問題として極めて特異な性質を持っています。これまで民泊申請代行を行うコンサルタントが刑事事件として摘発された例は確認されておらず、今回の事件が民泊業界での無資格代行業者摘発の先駆的な事例となる可能性があります。

この事件の重大性は、単なる無資格業務を超えて公文書偽造という重大犯罪に発展したことにあります。容疑者は大田区の公印や区のロゴを貼り付けて本物に似せた「特定認定書」をパソコンで作成し、依頼者に交付しました。これは行政機関の信頼性を根本から揺るがす行為であり、警視庁大森署が起訴を求める「厳重処分」の意見を付けたのも当然の判断といえます。

民泊業界では、これまでも無資格コンサルタントによる申請代行が横行していることが指摘されていました。当ウェブサイトでは「行政書士ではない無資格のコンサルティング会社は違法です」との警告を10年以上前から掲載していましたが、実際の摘発には至っていませんでした。今回の事件により、こうした警告が現実のものとなったことが証明されました。

行政書士法改正による規制強化の内容

2025年6月に成立した行政書士法改正は、無資格業務に対する包括的な対策を実現しています。最も重要な改正点は第19条の業務制限規定に「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が追加されたことです。これにより、「コンサルタント料」「手数料」「会費」など名目を問わず、対価を受領して書類作成を代行する行為は明確に違法となりました。

使命規定の明文化により、行政書士は「国民の権利利益の実現に資することを使命とする」ことが法的に位置づけられました。これは単純な書類作成業務を超え、国民保護の観点から専門性の重要性を強調したものです。

デジタル対応努力義務の新設により、行政書士には情報通信技術の活用を通じた業務改善が求められます。これは他の士業法には例のない先進的な規定で、行政手続きのDX化に対応した制度設計となっています。

両罰規定の整備により、無資格業務を組織的に行う法人についても、行為者と併せて処罰されることになりました。従来は個人のみが処罰対象でしたが、組織的な違法業務への抑制効果が期待されます。

行政書士法改正の主要ポイント
  • 使命規定の明文化
    • 行政書士は「国民の権利利益の実現に資することを使命とする」ことを法的に位置づけ
    • 単純な書類作成業務を超え、国民保護の観点から専門性の重要性を強調
  • 無資格業務の規制強化
    • 「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」書類作成を代行することを明確に禁止
    • 従来のグレーゾーンだった「コンサルタント料」「手数料」「会費」等での代行を完全に違法化
    • 処罰:1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
  • デジタル対応努力義務の新設
    • 行政書士に情報通信技術の活用を通じた業務改善を義務付け
    • 他の士業法には例のない先進的な規定
    • 行政手続きのDX化に対応した制度設計
  • 両罰規定の整備
    • 無資格業務を組織的に行う法人についても、行為者と併せて処罰
    • 従来は個人のみが処罰対象だったが、組織的な違法業務への抑制効果を強化
民泊業務への影響
  • 住宅宿泊事業届出、旅館業許可申請、住宅宿泊管理業者登録すべてで無資格代行を禁止
  • 「書類作成指導」「申請サポート」等の表現でも、実質的代行は処罰対象
  • 2026年1月施行により、取り締まりが大幅に強化される見込み

民泊業務への影響は特に深刻です。改正法により、住宅宿泊事業届出、旅館業許可申請、住宅宿泊管理業者登録のいずれについても、無資格者による代行は名目を問わず違法となります。「書類作成指導」「申請サポート」といった表現であっても、実質的に代行していれば処罰対象となります。

(業務の制限)
行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。

行政書士法第19条

無資格業者依頼に伴う犯罪リスクの深刻化

無資格業者への依頼は、事業者を予期せぬ犯罪に巻き込む深刻なリスクを生成します。**最も重要なのは、依頼者が詐欺や公文書偽造などの重大犯罪の共犯者として刑事処罰を受ける可能性があることです。この点については、コロナ関連補助金申請で実際に多くの事例が確認されています。

コロナ関連補助金申請での事例を見ると、無資格業者に申請を依頼した事業者の多くが詐欺罪で摘発されています。「業者にお任せしていただけ」「虚偽申請とは知らなかった」という弁明は、多くの場合認められず、依頼者も数年の懲役刑や数千万円の損害賠償責任を負うことになっています。今回の民泊事件でも、偽造書類を使用した依頼者が公文書偽造・同行使の共犯として処罰される可能性が高いのです。

経済的リスクも深刻です。無資格者による不適切な申請により許可が取り消された場合、営業停止による収益損失は甚大となります。民泊業界では年間1,290万円の売上を失った実際の事例も報告されており、さらに適正な手続きのための再申請費用、刑事事件の弁護士費用、行政処分への対応費用、近隣住民や利用者への損害賠償なども必要になります。コロナ関連補助金詐欺では、不正受給額の数倍の損害を被った事業者も存在します。

実務的リスクとして特に危険なのは、無資格者が法令違反を隠蔽するために更なる違法行為を重ねる傾向があることです。今回の事件でも、容疑者は適正な申請が困難になった際に公文書偽造という重大犯罪に走りました。民泊申請では建築基準法、消防法、都市計画法への適合性確認が必要ですが、無資格者はこれらの専門知識を欠くため、法令違反を隠すために虚偽の図面作成や証明書偽造などの犯罪行為に発展するリスクが常に存在します。

さらに、運営開始後の継続的な法令違反リスクも看過できません。無資格者は宿泊者名簿の管理義務、標識掲示義務、住宅宿泊管理業者への委託義務などについて十分な指導ができないため、後に違反が発覚して事業停止命令や許可取消処分を受ける可能性が高くなります。これらの違反が刑事事件に発展した場合、依頼者も法人としての刑事責任や、代表者個人の刑事責任を問われる可能性があります。

適正な行政書士選定の重要性

行政書士法改正を受けて、適正な行政書士の選定がより重要性を増しています。信頼できる行政書士を識別する最も確実な方法は、日本行政書士会連合会のウェブサイトで登録番号を確認することです。正規の行政書士は必ず固有の登録番号を保有し、各都道府県行政書士会の会員名簿でも確認可能です。

専門性の評価においては、民泊関連業務の実績が重要な指標となります。経験豊富な行政書士事務所で日本全国での民泊申請実績を持つ事例もあり、旅館業法、住宅宿泊事業法、関連する建築・消防法令への深い理解を有しています。特に「特定行政書士」の資格を保有する場合、不服申立て手続きの代理も可能であり、行政処分に対しても適切な対応が期待できます。

正規の行政書士による民泊申請代行では書類作成のみならず、法令適合性確認、関係機関との調整、建築・消防要件の確認を包含する包括的なサービスの対価です。極端に低価格を提示する業者は無資格である可能性が高く、避けることが賢明です。

今後の対応

2025年の行政書士法改正は、民泊業界における無資格業務問題への決定的な対策となる可能性が高いといえます。今回の公文書偽造事件は、無資格コンサルタントへの短期的な費用節約が法的、経済的、実務的に極めて高いリスクを伴うことを明確に示しています。

制度改正の真の目的は単純な取り締まり強化ではなく、国民の権利利益の実現にあります。適格な専門家による適正な手続きは事業者の成功と利用者の安全を両立させる基盤となります。

民泊業界の健全な発展のためには、短期的な費用削減よりも長期的な事業の安定性と法的安全性を重視した判断が不可欠です。正規の行政書士による専門的なサービスは、一見高額に感じられるかもしれませんが、今回の事件が示すように、無資格業者への依頼により生じるリスクを考慮すれば、むしろ合理的な投資といえるでしょう。

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この記事を書いた人

特定行政書士  戸川大冊

特定行政書士  戸川大冊

旅館業許可・住宅宿泊事業・特区民泊などの宿泊施設許認可および政治法務が専門で、「民泊許可」の第一人者。様々な観光系企業の顧問や大学での講義を担当している。
テレビ朝日「羽鳥慎一モーニンショー」、フジテレビ「めざまし8」、NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」など多数のテレビ番組に出演。