民泊を始める場合に法人の定款変更は必要か?民泊に関する法人の目的記載について行政書士が解説

定款

法人が民泊事業を始める際に定款の目的変更が必要となる理由

法人の権利能力の制限と定款の目的

法人は、自然人とは異なり、定款に記載された目的の範囲内でのみ権利能力を有するという重要な制限があります。これは「目的による制限」と呼ばれ、法人の本質的な特徴の一つです。

民法第34条は「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」と規定しています。つまり、法人は定款に記載された事業目的を超えて行動することができません。

「権利能力」とは?

民法をはじめとする「私法」上の権利・義務の帰属主体になり得る「資格」のことを「権利能力」といいます。「能力」という語が使われていますが、世間一般でいう「能力」とは関係がありません。

例えるなら、民泊ビジネスをはじめとした各種の取引という「ゲーム」に参加することが出来る「参加資格」のようなものと考えてください。

権利能力とは?

経済取引に参加できる「参加資格」のようなもの。

「人」には二種類ある

民法をはじめとする私法上の「権利能力」を有する主体を「人」といいますが、この「人」は「自然人」と「法人」に分類されます。

「自然人」である生身の人間は、生まれながらにして制限のない「権利能力」を持っています。一方で、「法人」である会社などは「目的」の範囲内で権利能力を持つに過ぎません。

「人」は2種類
  • 自然人=生身の人間→生まれながらにして100%の権利能力
  • 法人=会社や宗教法人やNPO法人など→法人の目的の範囲内で権利能力を持つ

「法人」の「権利能力」には制限がある

法人は、定款などの基本約款において、その事業内容である目的を定めなければなりません。そして、上に挙げた民法34条は、法人は、「定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」と規定しています。

したがって、法人の目的の範囲外とされる行為はすべて無効となり、追認によって有効とする余地もありません。法人の目的範囲外の行為は絶対的に無効なので、追認しても有効に転化するすることはできないからです。

法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

民法第34条(法人の能力)

民泊実施のために必要な法人の「定款変更」とは

民泊実施のために「定款」の「目的」を追加する

国家戦略特区における民泊事業(特区民泊)や、旅館業法の要件緩和による民泊事業に企業が新たに参入しようとする場合に、当該法人の「目的」が問題となります。

住宅宿泊事業や旅館業は、宿泊料を受けて人を宿泊させる事業であり、これらは独立した事業分野として認識されています。多くの法人の既存の定款には、このような宿泊事業が目的として記載されていないケースが一般的です。

例えば、不動産賃貸業を営む法人の定款に「不動産の賃貸及び管理」とだけ記載されている場合、これは通常の賃貸借契約に基づく事業を指しており、短期的な宿泊サービスの提供とは法的性質が異なります。住宅宿泊事業は旅館業法や住宅宿泊事業法という特別法の規制を受ける事業であり、単なる不動産賃貸とは区別されるためです。

従来は「民泊事業」を実施していなかったわけですから、当該法人の定款に記載された「目的」には「民泊」に関する事業が書かれていないケースがほとんどです。

したがって、民泊事業を新たに始めようとする場合には、定款を変更して法人の目的に「民泊」に関するものを追加しなければいけません。

定款を変更して、法人の目的に「民泊」に関する事業を追加することが必要

民泊を始める場合の定款変更の内容とは?

そこで問題となるのが、「民泊」とは何の事業なのかという点です。本サイトで繰り返し説明している通り、「民泊」という用語は法律上の用語ではありません。したがって、定款に「民泊」と記載するのはNGです。

定款を変更して、法人の目的に「民泊」と記載するのはダメ

国家戦略特別区域法によれば、特区民泊は「旅館業法の規定の適用除外」とされています。したがって、「旅館業」ではありません。一方で、旅館業法上の「旅館・ホテル営業」や「簡易宿所」の許可を得て実施される「民泊」は旅館業に該当します。

さらに、2018年6月15日からは「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が施行されました。住宅宿泊事業法によって実施される民泊を「住宅宿泊事業」といいます。

以上より、新たに民泊事業を始めようとする法人は、定款にこれらを目的として追加することが必要です。

・国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業、住宅宿泊事業及び旅館業

なお、「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」は旅館業法の規定の適用除外になり、ホストとゲストの契約は短期賃貸借契約となります。そのため、特区民泊ホストの事業は「賃貸業」と位置づけられます。

したがって、「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」に加えて「賃貸業」と記載することも可能だと思われます。

・国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業、住宅宿泊事業及、旅館業及び賃貸業

定款変更を行わない場合のリスク

行政上のリスクだけでなく民事上のリスクも

定款の目的に記載のない事業を行った場合、以下のような問題が生じる可能性があります。

第一に、行政上の許認可取得の障害となります。住宅宿泊事業の届出や旅館業の許可申請において、多くの自治体では法人の定款の提出を求めており、事業目的に宿泊事業が含まれていることを確認します。目的に記載がない場合、届出や許可で支障が生じる可能性が高くなります。

第二に、法人の行為の有効性に疑義が生じるリスクがあります。定款の目的外の行為は、理論上、法人の権利能力を超えた行為として無効となる可能性があります。現在の判例では目的外行為も原則として有効とされる傾向にありますが、取引の相手方から問題視される可能性は残ります。

第三に、取締役の善管注意義務違反の問題が生じます。取締役は定款に従って職務を執行する義務があり、定款の目的外の事業を行うことは、この義務に違反する行為となります。

定款作成は行政書士に相談

民泊事業を実施する法人を新設する際に、どのような定款にすればよいかと司法書士の先生方から相談が多数寄せられています。民泊事業のために法人を新設する場合には、民泊専門の行政書士にご相談ください。

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この記事を書いた人

特定行政書士  戸川大冊

特定行政書士  戸川大冊

旅館業許可・住宅宿泊事業・特区民泊などの宿泊施設許認可および政治法務が専門で、「民泊許可」の第一人者。様々な観光系企業の顧問や大学での講義を担当している。
テレビ朝日「羽鳥慎一モーニンショー」、フジテレビ「めざまし8」、NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」など多数のテレビ番組に出演。