【区分所有法】区分所有建物(分譲マンション)で民泊は可能?法的な問題点とは?

所有権とは?

所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有しています(民法第206条)。したがって、マンションの所有権を持っていれば、その所有物件について自由に使用したり収益(人に貸し)したりすることができるようにも思えます。

では、分譲マンションの所有者も、自己の所有物件(分譲マンション)を自由に使用したり収益(人に貸し)したりすることができるため、民泊を実施することは問題ないのでしょうか。

この点について理解するために、本記事では「区分所有法」について解説します。

 

区分所有法とは?

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分譲マンションの区分所有者は、一棟の建物を区分して所有しています。そのため、建物およびその敷地等を共同して管理する必要があります。そこで、そのための機構や方法等について規定したのが「区分所有法」です。

一戸建てであれば一棟の建物全体を同一の人が所有するため問題が少ないですが、マンションの場合には多数の人が各々の住戸を所有しています。そのため、建物全体の管理方法や共有部分の使用方法をはじめ、他の区分所有者の迷惑にならないように取り決めをする必要があるのです。


区分所有とは?

民法は「一物一権主義」を原則としています。「一物一権主義」とは、所有権は1個の独立した物についてのみ成立し、物の一部を対象とする所有権は成立しないという原則です。物に対する権利関係を明確にするための、民法上当然の原則であると考えられています。

民法上の原則である一物一権主義によると、集合住宅の場合も、1棟の建物全体について1個の所有権が成立するのみで、当該建物の一部(1室)を対象とする所有権は認められません。

例えば、2部屋からなる1棟の共同住宅の場合には、その1室をAが所有し、他の1室をBが所有することはできないのです。この場合、民法上の「一物一権主義」を前提にすると、AとBが建物全体を共有するものとして扱われます。

共同住宅の1戸ごとに所有権を認めるためには、一物一権主義の例外をなす特別の法律(特別法)が必要となります。そこで、一物一権主義の例外をなす「区分所有」の概念をより明確にするとともに、民法ではほとんど規定されていなかった区分所有建物の管理に関する規準および制度を明確にすることを目的として、「区分所有法」が制定されました。

区分所有権の内容

区分所有法は、建物の一部について所有権が成立するためには、その部分が「構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの」でなければならないと規定ています(区分所有法1条)。この所有権を「区分所有権」(同法2条1項)、その所有者を「区分所有者」(同法2条2項)、区分所有権の目的となっている建物の部分を「専有部分」(同法2条3項)といいます。そして、区分所有権の対象になっている1棟の建物自体を、通常、「区分所有建物」といいます。

共有部分とは?

区分所有権の対象は専有部分だけですが、区分所有建物は複数の専有部分だけで成り立っているわけではありません。区分所有建物には、専有部分以外にも、区分所有者が共同で使用する廊下や階段などがあります。これらを「共用部分」といいます(2条4項・4条)。専有部分以外の建物の部分は、すべて共用部分です。共用部分は、すべての、または一部の区分所有者の共有に属します(11 条)。ただし、民法に規定されている共有(民法 249 条以下)とは異なった取扱いがなされています

民泊と区分所有法の関係

「民泊」との関係で問題になるのは、区分所有法の第6条と第57条です。

マンション等の区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはなりません(区分所有法第6条)。

つまり、他の区分所有に迷惑がかかるような使い方できません。具体的には、マンションの区分所有者の総意で決定された「マンション管理規約」に反するような使い方はできないということになります。

【区分所有法】民泊と「マンション管理規約」

居室を住宅以外の用途に供している場合には、マンション標準管理規約12条に違反し、区分所有法6条1項所定の区分所有者の共同の利益に反する行為に該当することになります。

したがって、マンション管理組合は区分所有法57条2項及び1項に基いて共同の利益に反する行為の停止等の請求を行うことが可能となります(東京地判平25.9.19参照)。

区分所有法 第6条(区分所有者の権利義務等)
区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

2  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。

3  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

区分所有権は、当該集合住宅の専有部分を所有する権利であり、「所有権」の一種です。

この点、所有権はその対象物を直接支配する権利であることから、その所有権を持っている者(区分所有者)は、所有する専有部分を自由に「使用」「収益」「処分」したりすることができるのが原則です(民法第206条 「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」)。

しかし、区分所有法により、区分所有権には制限が加えられています。

これは、一棟の建物を区分し、その区分された部分(専有部分)を異なる者が所有することを認めた時点で、その建物には複数の所有者が存在することになり、建物を介して団体を構成するため、区分所有権には団体的な制約が内在するためです。

この制約により、専有部分内であっても他の区分所有者の迷惑となる行為をすることはできません。すなわち、区分所有権は建物の区分された一部に成立するものであり、区分所有者は建物の保存に有害な行為をすることや建物の管理・使用に関して共同の利益に反する行為をすることなどが禁じられているのです。


区分所有者の「共同の利益に反する行為」は停止請求できる

マンション内の区分所有者が共同の利益に反する行為をした場合や、共同の利益に反する行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを裁判所を通じて請求することができます。

区分所有法 第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。

2  前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。

3  管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。

4  前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。

「共同の利益に反する行為」に当たるか否かは、「当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の様態、程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである」とされています(東京高判昭和53年2月27日)。

さらに、一般に、「共同の利益に反する行為」は、単に財産的観点からの共同の利益だけではなく、いわゆる生活上の共同の利益も含まれると解されています。

以上のように、管理組合が民泊を認めない場合に隠れて民泊事業を実施することは、「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するといえます。


特区民泊では審査基準で明記されている

では、国家戦略特区における民泊事業(特区民泊)については、どうでしょうか。自治体によって考えが異なっています。

この点について、大田区の審査基準ではマンション管理規約との整合性は問わないとされています。

一方で、大阪府の審査基準案では、「施設が区分所有法第2条第1項に規定する区分所有権の目的であるものである場合にあっては、区分所有法第 30 条第1項に規定する規約に違反しないと認められること。」と規定されています。すなわち、大阪府の審査基準案ではマンション管理組合との整合性が担保されないと認定が取得できません。

大阪市の特区民泊においても、大阪府特区民泊と同様の考え方に基づいて審査されます。


特定行政書士 戸川大冊
small早稲田大学政治経済学部卒/立教大学大学院法務研究科修了(法務博士)
民泊許可手続の第一人者。日本全国の民泊セミナーで登壇し累計850人以上が受講。TVタックルで民泊について解説。政治法務の専門家行政書士として日本全国の政治家にクライアントが多数。 民泊を推進する日本全国の自治体政治家や国会議員にネットワークを持つ、日本で唯一の行政書士。
ビートたけしのTVタックル、NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」など多数のテレビ番組に取り上げられている。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、週刊誌などでも掲載多数。

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