【農家民宿】建築基準法や消防法の規制が緩和されるので外国人向け体験型インバウンド対応におすすめ

農家民宿は元祖「民泊」!

昨年から特区民泊や簡易宿所型民泊が注目を集めていますが、実は10年以上前から民泊が一部解禁されていました。特区民泊などの陰に隠れて存在感がないですが、元祖民泊といえるのが「農家民宿」です。この「農家民宿」は、一般の簡易宿所型民泊と比べて多くの優遇措置を受けられるため、簡易宿所の営業許可を取得するハードルが非常に低くなっています。今回は、この「農家民宿」の要件について説明します。


旅館業についての一般的な解説は、旅館業法の解説記事をご確認ください。

【旅館業法】旅館・ホテル/簡易宿所の営業許可を申請して民泊を実施する方法とは?合法民泊の始め方

農家民宿とは?

農林水産省が所管する農村休暇法(正式名称:農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律)第二条5項において規定される「農林漁業体験民宿業」を指します。これを通称「農家民宿」と呼んでいます。

「農林漁業体験民宿業」とは、施設を設けて人を宿泊させ、農林水産省令で定める農村滞在型余暇活動又は山村・漁村滞在型余暇活動に必要な役務を提供する営業をいいます。

宿泊料を得て人を宿泊させる営業を行うことから、旅館業法条の「簡易宿所」営業許可を取得するもののうち、農林水産省令で定める役務を提供するものが「農家民宿」となります。

簡易宿所の要件については以下のページをご確認ください。
【旅館業法】簡易宿所の営業許可を申請して民泊を実施する方法とは?合法民泊の始め方

農村休暇法施行規則第2条に定められる役務を提供する営業を行うのであれば、農林漁業者であるか否かにかかわらず 「農林漁業体験民宿業」となります。 そして、この「農林漁業体験民宿業」は、平成28年4月1日に旅館業法の運用が緩和される以前から、客室延床面積が33㎡未満であっても旅館営業(簡易宿所営業)が認められていました。

したがって、民泊向けに実施された旅館業法の面積要件緩和を10年以上前から先取りしていたとえいます。

農家民宿とは?

1.旅館業法上の「簡易宿所」で

2・「農村滞在型余暇活動又は山村・漁村滞在型余暇活動に必要な役務を提供」するもの


農家民宿が提供するサービス

単なる「民泊」ではなく、「農家民宿」として認められるためには、「農山漁村滞在型余暇活動」に必要な役務の提供を提供する必要があります。

(農村余暇法 第2条5項)
この法律において「農林漁業体験民宿業」とは,施設を設けて人を宿泊させ,農林水産省令で定める農村滞在型余暇活動又は山村・漁村滞在型余暇活動(以下「農山漁村滞在型余暇活動」という。)に必要な役務を提供する営業をいう。

では、上記の「必要な役務」とは具体的に何を指すのでしょうか。この点については、農山余暇法施行規則2条各項で規定されています。「農村滞在型」「山村滞在型」「漁村滞在型」と分かれていますが、今回は「農村滞在型」を例に挙げて見てみましょう。

「農林漁業体験民宿業」の提供サービスの例
農村滞在型余暇活動に必要な次に掲げる役務   (事例)
イ 農作業の体験の指導 ・・・ 田植え、稲刈り体験
ロ 農産物の加工又は調理の体験の指導  ・・・ 郷土料理づくり体験
ハ 地域の農業又は農村の生活及び文化に関する知識の付与 ・・・ 縄ない指導
ニ 農用地その他の農業資源の案内 ・・・ 農業用ため池への案内
ホ 農作業体験施設等を利用させる役務 ・・・ そば打ち体験館の利用
ヘ 前各号に掲げる役務の提供のあっせん ・・・ 地域の協力農家への紹介

上記のようなサービスは、必ずしも自分で体験を提供する必要はなく、「へ」に規定されているように地域の体験施設や団体等と連携し、体験をあっせんしても差し支えありません。しかも、そのような体験へ送迎する場合にも道路運送法上の問題はないとされています(平成15年3月28日付 国自旅第250号 自動車交通局旅客課長通知)。


農家民宿は様々な緩和措置が受けられる

合法的に民泊を実施する場合には、旅館業法以外の各種法令による規制がネックとなるケースが多くあります。具体的には、建築基準法上の用途が「旅館」に変わることによる容積率制限の厳格化や、消防法上の防火対象物類型が変わることによる設備新設の必要などです。

ところが、農家民宿は特区民泊や簡易宿所型民泊に比べて、大幅に規制が緩和されています。以下に、その具体的な内容を列記します。

建築基準法上の規制緩和

簡易宿所型民泊の営業許可を得る際のハードルの一つに、建築基準法の「旅館」に該当することによる規制が挙げられます。

しかし、「農家民宿等に係る建築基準法上の取扱いについて(技術的助言)」(平成17年1月17日付 国住指第2496号)により、住宅の一部を農林漁業体験民宿業として利用するもののうち、客室の床面積が33㎡未満であって、避難上支障が無いと認められる建築物については、同法上旅館には該当しないものとして扱われます。これにより建築基準法施行令第114条「主要な間仕切り壁は準耐火構造 、同126条の4「宿泊室、廊下、階段などに非常用照明装置を設置」の適用を受けず、設置を要しません。

下記を全て満たした場合には、建築基準法上の「旅館」ではなく「住宅」として扱われる。

◆住宅の一部を農家民宿として利用
◆客室延床面積が33㎡未満
◆各客室から直接外部に容易に避難できるなど避難上支障ない

農家民宿等に係る建築基準法上の取扱いについて(技術的助言)

国住指第2496号 平成17年1月17日

簡易宿泊所については、昭和39年9月19日住指発第168号において、建築基準法上旅館に含まれ るものとして取り扱う旨通知しているところであるが、住宅の一部を農家民宿等として利用する もののうち、客室の床面積の合計が33㎡未満であって、各客室から直接外部に容易に避難できる 等避難上支障がないと認められる建築物については、上記通知にかかわらず、建築基準法上旅館 に該当しないものとして取り扱われたい。

また、建築基準法施行令第128条の4第4項の適用に当たって、住宅の一部を農家民宿等として 利用するものについては、住宅で事務所、店舗その他これらに類する用途を兼ねるものとして取 り扱って支障がないものと考えられるので、その旨申し添える。


消防法上の規制緩和

消防法の規制については、農家民宿は消防法上の「旅館」に該当する区分となり、面積等の条件によって消防用設備等の設置が義務づけられています。しかし、農家民宿として使用する居室等の面積が50㎡未満であり、かつ住宅全体の1/2未満の場合は、消防法上では「一般住宅」の扱いとなり、主な消防用設備等の設置等の義務が生じません

一方で、民宿(民泊)として使用する居室等の面積が50㎡以上となる場合、もしくは住宅全体の1/2以上となる場合は、「旅館」に該当する区分となり、原則として消防法の基準に適合する必要があります。しかし、農家民宿の場合は 「民宿等における消防用設備等に係る消防法令の技術上の基準の特例の適用について」 (平成19年1月19日 消防予第17号 消防庁予防課長→平成29年3月23日 消防予第71号 消防庁予防課長)により 一定の条件を満たしていれば消防長等の判断で 1. 「誘導灯」及び「誘導標識」 、2 「消防機関へ通報する火災報知設備」について特例基準が適用され、設置を要しません(例外的に緩和されます)。

◆農家民宿部分の延床面積が50㎡以下、かつ住宅部分の延床面積よりも小さい場合=消防法上の「一般住宅」に該当(「旅館」に該当せず規制なし)。

◆農家民宿部分の延床面積が50㎡以上、または農家民宿部分が1/2以上=管轄の消防署長・消防長が適切な防火体制が行われると認めれば、「誘導灯」「誘導標識」「消防機関へ通報する火災報知設備」は設置不要。


道路運送法の適用外

上でも述べましたが、農村滞在型余暇活動に必要な役務として、農作業体験などの役務の提供のあっせんも認められています。そこで、このような体験施設まで民宿運営者の自家用車を使って農家民宿から送迎する場合に、タクシーやバスなどと同様の「旅客自動車運送事業」に当たらないかが問題となります。

道路運送法第78条の規定により、自家用自動車は、原則として、有償の運送の用に供してはならず、災害のため緊急を要するときを除き、例外的にこれを行うためには、国土交通大臣の登録又は許可を受けるべきことが定められています。

農家民宿の運営者が自家用車を利用するケースでは、農作業体験などの役務提供施設へ送迎する場合に、道路運送法上の問題はないとされています(平成15年3月28日付 国自旅第250号 自動車交通局旅客課長通知)。宿泊サービスの一環として行う送迎輸送は原則として許可対象外であり、道路運送法上の問題とはならないからです。

宿泊サービスの一環として行う送迎輸送は原則として許可対象外であり、道路運送法上の問題はない。

旅行業法の適用外

次に、旅行業法についても論点が存在します。農家民宿の運営者が、農業体験などのツアーを販売・広告するのは旅行業法に抵触するのではないかが問題になります。

旅行業法第二条(定義)
この法律で「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう。

三  旅行者のため、運送等サービスの提供を受けることについて、代理して契約を締結し、媒介をし、又は取次ぎをする行為

この点についても、国土交通省から通知が出ています。農家民宿が、宿泊とセットで農林漁業体験サービスを販売・広告する場合は許可を必要としません(平成15年3月20日付 国総観旅第526号 観光部旅行振興課長通知)。したがって、農家民宿がグリーン・ツーリズムの企画(体験ツアーなど)を販売する場合に、ツアー主催者が自ら行う販売・広告は、旅行業法の対象になりません。


農家民宿が、宿泊とセットで農林漁業体験サービスを販売・広告する場合は許可が不要。

農家民宿の実施主体に関する要件が平成28年4月1日から緩和された

以上のように、メリットが満載の「農家民宿」ですが、平成28年3月までは「農林漁業者」しか特例の恩恵を受けられませんでした。事業の主体が、農林漁業者に限定されていたからです。

改正前 旅館業法施行規則

第五条  旅館業法施行令第二条 に規定する施設は、次のとおりとする。

四  農林漁業者が農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律 (平成六年法律第四十六号)第二条第五項 に規定する農林漁業体験民宿業を営む施設

しかし、上記の条文は平成28年4月1日に改正されました。旅館業法の改正としては、簡易宿所の面積要件緩和が有名ですが(33㎡→3.3㎡/1人)、農家民宿についての規定も改正されています。

改正後 旅館業法施行規則

第五条  旅館業法施行令第二条 に規定する施設は、次のとおりとする。

四  農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律 (平成六年法律第四十六号)第二条第五項 に規定する農林漁業体験民宿業に係る施設であつて、農林漁業者又は農林漁業者以外の者(個人に限る。 ) がその居宅において営むもの

上記の通り、農家民宿についての規定から「農林漁業者が」という主体についての文言が削除されています。したがって、農林漁業者以外の者であっても個人であれば農家民宿を実施することが可能となりました。

家主不在型の農家民宿が平成30年6月15日から解禁された

平成30年には上記の旅館業法施行規則が再び改正され、「その居宅において営むもの」が削除されました。したがって、農村余暇法による農家民宿は事業者の「居宅」で実施する形態、すなわち家主同居型である必要はなくなりました。

つまり、家主不在型の農家民宿が解禁されたのです。

平成28年の改正と平成30年の改正をあわせると、農林漁業者以外の一般事業者が、別荘や空き家などの建物を使用して農家民宿を実施することが可能になったのです。

改正前 旅館業法施行規則

第五条  旅館業法施行令第二条 に規定する施設は、次のとおりとする。

四  農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律 (平成六年法律第四十六号)第二条第五項 に規定する農林漁業体験民宿業に係る施設であつて、農林漁業者又は農林漁業者以外の者(個人に限る。 ) がその居宅において営むもの

改正後 旅館業法施行規則

第五条  旅館業法施行令第二条 に規定する施設は、次のとおりとする。

四 農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律(平成六年法律第四十六号)第二条第五項に規定する農林漁業体験民宿業に係る施設

緩和措置の整理

農家民宿は規模(農家民宿部分の延床面積)に応じて緩和措置が変わります。特にメリットが有るのは建築基準法上の緩和措置であり、この最大のメリットを得られるようにするためには33㎡未満で実施することが必要です。

まとめ

今回の改正により、合法的民泊の1つの選択肢として農家民宿の可能性が拡がっています。特区民泊や通常の旅館業民泊と合わせて、農家民宿型民泊の可能性も検討されることをお勧めします。

旅館業の営業許可に関しては、各地で条例が異なるうえ、同一自治体の中でも保健所によって対応が異なります。旅館営業許可の申請手続きは、不服申立てまでワンストップで受任可能な特定行政書士にご依頼ください


特定行政書士 戸川大冊
small早稲田大学政治経済学部卒/立教大学大学院法務研究科修了(法務博士)
民泊許可手続の第一人者。日本全国の民泊セミナーで登壇し累計850人以上が受講。TVタックルで民泊について解説。政治法務の専門家行政書士として日本全国の政治家にクライアントが多数。 民泊を推進する日本全国の自治体政治家や国会議員にネットワークを持つ、日本で唯一の行政書士。
ビートたけしのTVタックル、NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」など多数のテレビ番組に取り上げられている。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、週刊誌などでも掲載多数。

コメントは受け付けていません。