【旅館業法】フロントは不要になった?コロナ対策フロント無人化運営を正確に徹底解説します

「玄関帳場」とは何?旅館業法改正で玄関帳場の何が変更になった?

玄関帳場とはフロントのこと

「玄関帳場」とは、旅館又はホテルの玄関に付設された、宿泊客と面接して帳簿等を記載する等のための設備をいいます。一般的には、「フロント」と呼ばれる設備です。

新型コロナウイルス感染症予防の観点から、フロントでの対面型スタッフ対応を可能か限り避けてICT機器による非対面型対応に切り替えるケースが急増しています。

弊所へも、新型コロナウイルス感染症対策としてICT機器を活用したチェックイン方法についての問い合わせが激増しています。持続化補助金を活用すると100万円+50万円の限度で対策費用が補助されるので、ICT機器による自動チェックイン機の導入が今度も増え続けると予想されます。

規制緩和により簡易宿所ではフロント設置が不要になっている

「簡易宿所」営業については、旅館業法施行令に規定された構造設備基準において、玄関帳場等に関する規定を設けていません。したがって、現在は「簡易宿所」営業については玄関帳場を設置する義務は法律上はありません。

この点について、旅館業における衛生等管理要領においては、かつて簡易宿所営業の施設設備の基準として「適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けること。」と規定していました。しかし、「旅館業法施行令の一部を改正する政令の施行等について」(平成 28 年3月 30 日付け生食発 0330 第5号厚生省生活衛生局長通知)において、上記要領の当該規定を「適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けることが望ましいこと。」と改正しています。

それにもかかわらず、地方公共団体において、玄関帳場等の設置について引き続き条例で規定しているケースもあります(上乗せ条例)。

この点については、上乗せ条例についての解説記事をあわせて御覧ください。

法律が認めても条例が民泊を許さない!法律より厳しい条例規制【上乗せ条例】の問題を解説します

2018年6月15日以降に変更となったのは主に「旅館・ホテル営業」の玄関帳場

上記の通り、「簡易宿所」の玄関帳場(フロント)については法律・政令レベルではすでに設置が不要になり規制緩和済みです。2018年の改正で新たに緩和されたのは、「旅館・ホテル営業」における玄関帳場(フロント)の扱いです。

「簡易宿所」営業と「旅館・ホテル」営業とでは論点が異なるので注意してください。

玄関帳場(フロント)に必要な機能は2種類ある

旅館業における玄関帳場は、宿泊者名簿の正確な記載と宿泊者への客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の者の出入りの状況の確認という、大きく分けて2つの機能を併せ持っています。

玄関帳場の機能

・宿泊者名簿の正確な記載と宿泊者への客室の鍵の適切な受渡し=パスポートチェックをして鍵を対面で渡す

・宿泊者以外の者の出入りの状況の確認=宿泊者以外の者が立入ろうとしたら止める

2018年6月15日以降は構造設備基準が緩和され、これら2つの機能を厚生労働省令で定める基準を満たす設備(ビデオカメラによる顔認証による本人確認機能等のICT設備を想定)によって代替できれば、物理的な玄関帳場を設けることが不要になりました。

今回は、この「ICT設備による代替」を利用した緩和措置について法令の条文を挙げながら具体的に解説します。民泊に関する情報サイトでは間違った情報が氾濫しているので、専門家執筆による正しい情報を理解することが非常に重要です。根拠条文を引用せず結論だけ提示している「民泊情報サイト」や「民泊運用代行会社サイト」は信用できませんので御注意ください。

旅館業の玄関帳場に関する法令を整理する

旅館業法の規定は、法律(旅館業法)→政令(旅館業法施行令)→厚生労働省令(旅館業法施行規則)という順に委任され、この順で具体化されています。また、各地方公共団体が条例を制定している場合が多くあります。

なお、「旅館業における衛生管理要領」は行政が旅館業法等の解釈について指針を示した内部資料に過ぎず、これは講学上の行政規則にあたるため法規としての性質(法規性)を持たないため、国民や裁判所に対する拘束力はありません。すなわち、行政の外部に対して効力を持たないものです(外部性がない)。法律を理解していない自称「民泊コンサルタント」や「民泊メディア」や「民泊運用代行会社」が発信する情報はこの点を理解できておらず、ほとんどが虚偽なので注意が必要です。

旅館業に関する法令

・法律(旅館業法)

・政令(旅館業法施行令)

・厚生労働省令(旅館業法施行規則)

・各地方公共団体の条例(旅館業法施行条例)

※要領・要綱(旅館業における衛生管理要領)は法的拘束力が無い。

したがって、旅館業許可(旅館・ホテル営業や簡易宿所営業)を取得する場合には、これらすべての規定を読み合わせて解釈し、業務フローを構築する必要があります。

旅館業法(法律の規定)

旅館業に関する法律である旅館業法では、旅館業施設に関する構造設備の基準を具体的に規定していません。施設の構造設備に関する基準は「政令」の定めに委任しています。

ここで言う「政令」とは、旅館業法施行令を指します。

旅館業法第3条2項
都道府県知事は、前項の許可の申請があった場合において、その申請に係る施設の構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき、当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当であると認めるとき、又は申請者が次の各号のいずれかに該当するときは、同項の許可を与えないことができる。

旅館業法施行令(政令の規定)

旅館業法の規定を受けて、政令である「旅館業法施行令」の第1条で旅館業の構造設備基準を規定しています。

ここでは、「宿泊者と面接に適する玄関帳場」か「宿泊者の確認を適切に行うための設備」のどちらかを設置することが規定されています。そして、後者については詳細な要件を「厚生労働省令」の規定に委任しています。

政令で規定されている玄関帳場

以下の1か2のどちらかを設置する必要がある。

1.宿泊者と面接に適する玄関帳場

2.宿泊者の確認を適切に行うための設備 ← 詳細な要件は厚生労働省令で規定

上記のうち「2.宿泊者の確認を適切に行うための設備」が今回の緩和によって新たに認められるようになった代替措置です。

旅館業法施行令第1条1項(構造設備の基準)
旅館業法(以下「法」という。)第三条第二項の規定による旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
一 (略)
二 宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するものを有すること。
三~八 (略)

旅館業法施行規則(省令の規定)

旅館業法施行令の委任を受けて、厚生労働省令である「旅館業法施行規則」において、上記「2.宿泊者の確認を適切に行うための設備」の詳細な要件を規定しています。

すなわち、「1.事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。」および「2.宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の者の出入りの状況の確認を可能とする設備であること。」の両方の要件を満たす場合が玄関帳場の代替措置として認められます。

厚生労働省令で規定される「玄関帳場」代替措置の要件

1.事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。

かつ

2.宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の者の出入りの状況の確認を可能とする設備であること。

この規定を読み解くと、本記事の冒頭で述べた「玄関帳場の2種類の機能」とは、さらに細かく分析すると3つの機能に分かれることがわかります。さらに、副次的な機能として「緊急時の駆け付け」も有すると介されています。すなわち、玄関帳場(フロント)の機能は合計で4つの機能に整理できます。図示すると以下のようになります。

「本人確認」はフロントの機能ではない

これまで法律・政令・省令の規定を条文を挙げて具体的に検討してきましたが、フロントや玄関帳場代替設備で「本人確認」をしなさいとはどこにも書いていません。つまり、法令上は「本人確認」はフロントの機能ではありません。

では、なぜ旅館業営業許可申請時に保健所では「本人確認」方法を具体的に示すように求めるのでしょうか。それは、「宿泊者名簿の正確な記載」を担保するための具体的方法として「本人確認」方法を疎明するよう求めているからです。

したがって、旅館業施設を営業する事業者が担保するべきは「宿泊者名簿の正確な記載」とその名簿の保存であり、玄関帳場代替設備としてICT機器を駆使した本人確認方法の仕組みを詳細に作り上げることではありません。

この点について旅館業営業許可申請者のみならず保健所職員の多くも勘違いしているので、正確に理解することが必要です。手段と目的を履き違え、いつの間にか手段が目的化するケースが多く見られます。

要領を参照して対策を練る

玄関帳場代替設備について、1のうち「迅速な対応」や2のうち「出入りの状況の確認」について、どのようは方法を採れば要件を満たすのか具体的に明らかではありません。それらを最終的に判断するのは行政(保健所)の裁量ですが、裁量権の行使に際して参考となる規定があります。

そこで、次項ではその規定について見てみます。

旅館業法施行規則第4条の3
旅館業法施行令第一条第一項第二号の基準は、次の各号のいずれにも該当することとする。
一 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。
二 宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること。

旅館業における衛生管理要領(法的拘束力は無し)

前述の通り、「旅館業における衛生管理要領」は国民や裁判所に対する法的拘束力がありません。ただし、保健所が旅館業に関する政令を解釈する上で指針となるものなので、これらを理解して手続を進めることは有益です。

すなわち、旅館業法施行規則に規定されてる「迅速な対応」や「出入りの状況の確認」について、行政(保健所)が判断する際の指針になっているため、そのような指針を参照することで、事前相談において行政(保健所)と建設的な議論が進められるのです。

「旅館業における衛生管理要領」では、「迅速な対応」については「通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制」と規定し、「出入りの状況の確認」については「営業者自らが設置したビデオカメラ等により、常時鮮明な画像により実施」することと規定しています。

玄関帳場代替措置の具体例(解釈指針)

1.事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。緊急時に対応できる体制については、宿泊者の緊急を要する状況に対し、その求めに応じて、通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制を想定しているものであること。

2.営業者自らが設置したビデオカメラ等により、宿泊者の本人確認や出入りの状況の確認を常時鮮明な画像により実施すること。

3.鍵の受渡しを適切に行うこと。

繰り返しになりますが、上記基準には法的拘束力がありません。あくまでも行政が解釈する際の指針です。

したがって、この衛生管理要領を持ち出し、「衛生管理要領に合致していないから認められない」などと指導するのは違法な行政指導です。

行政書士は行政法の専門家としてそのような違法な行政指導には毅然として対峙するほか、特定行政書士であれば最終的には申請者の代理人として不服申立を行うことも可能です。民泊をはじめとする旅館業の手続は、旅館業に関する法令に精通した「特定行政書士」に依頼することが必要です

適切な「鍵の受渡し」とは?

上記のように、「旅館業における衛生管理要領」では、「迅速な対応」と「出入りの状況の確認」についてはある程度具体的に規定しています。

しかし、「鍵の受渡しを適切に行うこと」については、「旅館業法施行規則」も「旅館業における衛生管理要領」も同じ書きぶりであり、衛生管理要領を読んでも何が「適切」なのか読み取ることができません。

この点について厚生労働省の見解が伺える資料として、「旅館業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」について(概要) というペーパーがあります。これは、旅館業法とそれに付随する政令が改正された際にその改正内容を解説した厚生労働省の資料です。

その中では、玄関帳場代替措置の具体例として「ビデオカメラによる顔認証による本人確認機能等のICT設備を想定」と明記しています。ここから、顔認証による本人確認等を前提としてICT機器により鍵を交付することも「適切な受渡し」に含まれると解釈できます。

この点、一部の行政庁では担当者が「ICT機器による鍵交付は適切な受渡しに該当せず、人間が対面で鍵を交付することが旅館業法および政令の規定から必須である」といった虚偽の説明を行うことがあります。法律や政令の規定からは人間による対面の鍵交付が必須という解釈は導き出せませんので、このような虚偽の説明による違法な行政指導を受けた場合には特定行政書士に御相談ください。

Ⅰ第2 適用の範囲及び用語の定義
1 この要領は、旅館業及びその営業者について適用する。
2 この要領において用いる用語は、次のとおり定義する。
(1) 略
(2) 略
(3) 「玄関帳場」又は「フロント」とは、旅館又はホテルの玄関に付設された会計帳簿等を記載する等のための設備をいう。


Ⅱ第1 旅館・ホテル営業の施設設備の基準
1~7 略
8 (玄関帳場又はフロント)
善良風俗の保持上、宿泊しようとする者との面接に適し、次の(1)から(4)までの要件を満たす構造設備の玄関帳場又はフロントを有すること。ただし、(5)の要件を満たす場合は、玄関帳場又はフロントに代替する機能を有する設備を備えているものとして、玄関帳場又はフロントを設置しないことができること。

(1) 玄関帳場又はフロントは、玄関から容易に見えるよう宿泊者が通過する場所に位置し、囲い等により宿泊者の出入りを容易に見ることが できない構造設備でないこと。
(2) 玄関帳場又はフロントは、事務をとるのに適した広さを有し、相対する宿泊者と従事者が直接面接できる構造であること。
(3) 旅館・ホテル営業においては、玄関帳場に類する設備として従業者が常時待機し、来客の都度、玄関に出て客に応対する構造の部屋を玄関に付設することができること。
(4) モーテル等特定の用途を有する施設においては、玄関帳場又はフロントとして、施設への入口、又は宿泊しようとする者が当該施設を利 用しようとするときに必ず通過する通路に面して、その者との面接に 適する規模と構造を有する設備(例えば管理棟)を設けることができること。
(5) 次の全ての要件を満たし、宿泊者の安全や利便性の確保ができていること。
1) 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。緊急時に対応できる体制については、宿泊者の緊急を要する状況に対し、その求めに応じて、通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制を想定しているものであること。
2) 営業者自らが設置したビデオカメラ等により、宿泊者の本人確認や出入りの状況の確認を常時鮮明な画像により実施すること。
3) 鍵の受渡しを適切に行うこと。

上乗せ条例がある自治体は要注意

以上に解説したことは法令レベルの規制です。

自治体によっては「上乗せ条例」により法令よりも厳しい規制を設けている場合もあります。そのような場合には、条例の規制に従う必要があります。

例えば、京都市の条例では「簡易宿所」で原則として玄関帳場(フロント)代替設備を認めませんが「旅館・ホテル」では一定の要件を満たせば玄関帳場(フロント)代替設備が認められます。一方で、東京都北区では「旅館・ホテル」では玄関帳場の代替設備を認めませんが小規模な「簡易宿所」では玄関帳場の代替設備が認められます。

京都市資料より


東京都北区資料より

しかし、大部分の自治体ではこのような「上乗せ条例」は制定されておらず、法令レベルの規制のみを遵守すれば許可を取得できます。また、玄関帳場以外の構造設備基準については上乗せ条例があっても、玄関帳場(フロント)代替措置については特に上乗せ条例が規定されていないケースもあります。例えば、函館市や東京都台東区などがこのケースにあたります。

このように、旅館業法に関する条例(旅館業法施行条例)は自治体によって千差万別なので、旅館業法令の体系を正確に理解した上で当該自治体の条例を読み解く必要があります。

旅館業に関する行政手続の相談は「特定行政書士」へ

弊所には、保健所から様々な違法な行政指導を受けたという相談が寄せられます。例えば、

「玄関帳場ICT代替措置を利用しても、宿泊期間中には必ず従業者が面接しなければならないのが法律の定めである」

「玄関帳場ICT代替措置のコールセンターは市内(同一地方自治体内)になければ旅館業法施行令の要件を満たさない」

など、虚偽の法理論を提示して申請者を屈服させようとする保健所担当者が多数います。弊所では、このような違法な行政指導には毅然とした態度で対応し、全ての指導を撤回させてきました。

玄関帳場・フロントの設置について保健所と話がまとまらない、保健所の指導に納得がいかない、保健所の指導に一貫性がなく振り回されているなどお困りの場合には、旅館業法手続きに精通した特定行政書士にご相談ください


特定行政書士 戸川大冊
small早稲田大学政治経済学部卒/立教大学大学院法務研究科修了(法務博士)
民泊許可手続の第一人者。日本全国の民泊セミナーで登壇し累計850人以上が受講。TVタックルで民泊について解説。政治法務の専門家行政書士として日本全国の政治家にクライアントが多数。 民泊を推進する日本全国の自治体政治家や国会議員にネットワークを持つ、日本で唯一の行政書士。
ビートたけしのTVタックル、NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」など多数のテレビ番組に取り上げられている。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、週刊誌などでも掲載多数。

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