法律が認めても条例が許さない(法律より厳しい条例規制【上乗せ条例】の問題)


旅館業法でOKでも旅館業法施行条例でNG?

旅館業法の運用が2016年4月1日から緩和され、簡易宿所営業で民泊事業が実施可能になりました。緩和の内容について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

具体的には、客室の最低面積の要件が緩和されフロント(玄関帳場)も設置不要になりました。すなわち、旅館業法上は「玄関帳場」として「カウンター」を備えたフロント設備が必要ではなくなるのです。

しかし、旅館業法上はカウンターが不要になったからといって、カウンター無しで簡易宿所営業として民泊が可能であることは意味しません。民泊を開業しようとする場所の自治体が制定した、旅館業法に関する「条例」の要件もクリアする必要があるからです。旅館業法施行条例については、こちらの記事をご覧ください。

法律と条例はどちらが優先?

民泊を規制する法律である「旅館業法」と、それに関する細かい規制を定めた「旅館業法施行条例」があります。そこで、このように「法律」と「条例」が同じ分野で併存する場合には、どちらが優先するのでしょうか。高校の「政治経済」や大学の「憲法」で扱う内容ですので、みなさんも一度は聞いたことがあると思います。今回は、憲法や地方自治法の条文を挙げて解説してみます。

普通地方公共団体は、法令に違反しない限り、その地域の独自ルールとして条例を制定することができます。

日本国憲法 第九十四条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

日本国憲法とは、日本の法体系で最上位に位置する法典です。この日本国憲法に反するような行動は、たとえ総理大臣であっても許されません。内閣総理大臣を含めた公務員は、憲法尊重擁護義務を負っているのです。

そして、この日本国憲法では、「法律の範囲内で条例を制定することができる」と定めています(94条)。自治体が条例を制定する権利は、法律ではなく憲法によって保障された権限です。これを受けて地方自治法では、下記のように規定されています。

地方自治法 第十四条
普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。

地方自治法は、「行政法」と呼ばれる分野に属する法律で、憲法の内容を具体的に規定しているものです。県や市町村などの自治体は、この地方自治法に基づいて事務を行っています。地方自治法によれば、普通地方公共団体は自主性及び自立性を発揮しながら、法律の範囲内で条例を制定することが出来ます。

では、条例と法律の関係はどのように考えればよいのでしょうか。この点は、「憲法」や「行政法」の講義で扱う有名な論点です。今回はこの点について解説してまいります。

上記条文でいう「法令」とは、憲法およびこれに適合する法令(法律およびその委任を受けた命令)を指します。そこで、条例を制定するには、次の3点を満たす必要があります。

  1. 当該自治体の事務に関するものであること
  2. 法令の範囲内であること
  3. 憲法に抵触しないこと

旅館業法のケースでは「2.法令の範囲内であること」が問題となります。

「法令の範囲内」とは?

「法令の範囲内」であるか否かについて、最高裁判所の判例は、法令と条例の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容および効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって決するべきとしています(「実質的判断説」と呼ばれます)。

例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなり得ます。

逆に、特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同一の目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じないとしています(徳島市公安条例事件・最大判昭50.9.10)。

旅館業法施行条例は?

では、民泊事業に関連して、旅館業法施行条例は旅館業法に抵触しないのでしょうか。

本件では、
・法律・条例の目的は同一である
・国の法令は「地方の実情に応じた別段の規制を容認する趣旨」である
といえます。したがって、旅館業法で不要とされたフロント設備について、各地の自治体が地方の実情に応じて旅館業法施行条例で設置を要求したとしても、両者の間に矛盾抵触は無いと考えられます。

なお、法律が規制の対象としている同一事項について、法律と同じ趣旨・目的で、法律が規定している規制より厳しく規制基準を設定するものを「上乗せ条例」と呼びます。

旅館業法に関する上乗せ条例が制定されている

では、旅館業法に関してはどのような上乗せ条例が存在するのでしょうか。ここでは、問い合わせが多い自治体の上乗せ条例をいくつか挙げてみようと思います。上乗せの範囲は多岐に渡りますが、ここでは「玄関帳場」の規定に絞って挙げてみます。

新宿区旅館業法施行条例第8条
(1) 宿泊者の利用しやすい位置に、受付等の事務に適した広さを有する玄関帳場を設置すること。
渋谷区旅館業法施行条例第9条第1項
六 宿泊者の利用しやすい位置に受付等の事務に適した玄関帳場その他これに類する設備を有すること。
豊島区旅館業法施行条例第9条
(1) 宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他これに類する設備を有すること。

新宿区、渋谷区、豊島区では簡易宿所の構造設備基準において玄関帳場を設置することが義務付けられています。

上乗せ条例の改正が必要

以上より、東京都23区の大半で制定されている「上乗せ条例」がある限り、旅館業法の運用が緩和されただけでは簡易宿所営業として民泊を実施することはできません(上乗せ条例が無い区では実施可能)。上乗せ条例が施行されている区内で、簡易宿所営業として民泊事業を実施する場合には、条例の改正を待つ必要があります。

新聞報道等では、厚生労働省の通知によって旅館業法上の規制が全面的に撤廃され、日本全国どこでも民泊開業が可能になったような論調です。しかし、実際には上乗せ条例による規制があるので注意してください。

上乗せ条例が無い区で開業するのが得策

旅館業法に関する上乗せ条例を制定し、簡易宿所の営業を厳しく制限する区がある一方で、構造設備基準について上乗せ条例が無い区も存在します。東京23区内では、条例の内容にかなり差があるのが現状です。東京以外の都市でも、地域によって条例の内容がかなり異なります。例えば、同じ政令指定都市であっても、京都市と大阪市では条例の内容が全く異なります。

さらに、厚生労働省の通知や特区民泊の開始に合わせて条例を改正する自治体も続出しています。数ヶ月前には開業を断念せざるを得なかった場所であっても、条例改正により開業が可能になったケースも多数あります。要件調査を実施するにあたっては、最新の条例と最新の指導要領を入手する必要があります。ネット上の情報は古くなっていることも多いので、ご注意ください。

民泊を開業する際には、物件取得のコスト・収益性・条例による構造設備基準のハードルを総合的に勘案して開業場所を選定する必要があります。弊所では民泊専門の特定行政書士が各種情報を多角的に分析して御提案申し上げます。

特定行政書士 戸川大冊
small早稲田大学政治経済学部卒/立教大学大学院法務研究科修了(法務博士)
民泊許可手続の第一人者。日本全国の民泊セミナーで登壇し累計850人以上が受講。政治法務の専門家行政書士として日本全国の政治家にクライアントが多数。 民泊を推進する日本全国の自治体政治家や国会議員にネットワークを持つ、日本で唯一の行政書士。
NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」など多数のテレビ番組に取り上げられている。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、週刊誌などでも掲載多数。

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