福岡市議会で民泊について一般質問
6月の福岡市議会で民進党の福岡市議会議員である田中しんすけ氏の一般質問をきっかけとして、福岡市が旅館業法施行条例の改正に着手しました。
従前の福岡市旅館業法施行条例では集合住宅での民泊実施が絶望的なので、必要な規制を設けながら厚生労働省の通知の趣旨に沿って条例を改正しようというものでした。あわせて、玄関帳場必置の規定も緩和するよう準備が進められました。
福岡市旅館業法施行条例の改正
住宅の全部又は一部を活用したいわゆる「民泊サービス」の旅館業法の許可取得を促進するため、改正された旅館業法施行令等にあわせ、福岡市が「福岡市旅館業法施行条例」に規定する営業施設の構造設備の基準及び営業施設について講ずべき措置の基準の一部を2016年9月21日に改正しました。
改正旅館業法施行条例は2016年12月から施行されます。今回の改正点は大きく分けて2つあります。
- マンションでも民泊可能になる
- 玄関帳場の代替措置が認められる
今回の記事では、上記2つの改正点のうち「玄関帳場の代替措置」について解説します。
福岡市旅館業法施行条例の改正点について詳細はこちらの記事を御確認ください。
この改正により、福岡市内でもマンション等を利用した簡易宿所型民泊の実施が可能になりました。12月1日から施行されるため、改正された条例に合わせて市の担当部局が審査基準の策定を進めてきました。
条例や施行細則では細かな点が規定されていないため、具体的な基準は担当部局が策定する審査基準等を待つ必要がありました。12月1日の施行を前にして、福岡市の公式サイトで審査基準が公表されました。
なお、今回の改正によって玄関帳場の代替措置が認められるのは宿泊者の定員が10名未満の簡易宿所です。10名を超える場合には代替措置が認められません。
福岡市旅館業法施行条例改正の概要
今回の記事で取り上げる「玄関帳場の代替措置」規定について条例改正の概要は以下の通りです。
福岡市旅館業法施行条例の改正内容
(福岡市旅館業法施行条例第5条第2号及び第3号)
福岡市旅館業法施行細則の改正内容
(2) 事故が発生した場合その他緊急を要する場合に迅速に対応することができる体制が整備されていること。
→上記の設備,措置及び体制の内容その他必要な事項は,市長が別に定める。
=担当部局が定める運用基準・審査事項によって規定される。
(福岡市旅館業法施行細則第5条)
「市長が別に定める設備,措置及び体制」の内容
① ビデオカメラ等を設置することにより,宿泊者の出入りの状況が確認できること。
② 事故が発生した場合その他緊急を要する場合の対応等を行う管理事務所を設けること。
③ 施設,管理事務所又はその他の場所において宿泊者との面接を行い,宿泊者名簿の記載を行うこと。また建物の管理取扱責任について,宿泊者の署名を取ること。
③-1 施設で面接等を行う場合は,従業者等が解錠のうえ,宿泊者に鍵を 引き渡すとともに,管理事務所の所在場所を書面で説明すること。
③-2 管理事務所で面接等を行う場合は,施設まで従業者等が宿泊者に付き添って案内し,従業者等が解錠のうえ,宿泊者に鍵を引き渡すこと。
ただし,次の事項をすべて満たす場合はこの限りでない。
・施設に旅館業の営業施設である旨が掲示されること。
・管理事務所において施設の所在場所を書面で宿泊者に説明する こと。
・鍵の取扱い方法について宿泊者に説明後,鍵の引き渡しが行われ ること。
③-3 その他の場所で面接等を行う場合は,施設まで従業者等が宿泊者に 付き添って案内し,従業者等が解錠のうえ,宿泊者に鍵を引き渡すこと。また,管理事務所の所在場所を書面で説明すること。
ただし,次の事項をすべて満たす場合はこの限りでない。
・施設に旅館業の営業施設である旨が掲示されること。
・その他の場所において施設及び管理事務所の所在場所を書面で宿泊者に説明すること。
・鍵の取扱い方法について宿泊者に説明後,鍵の引き渡しが行われること。
① 施設と管理事務所との間に通話機器が設置されていること。
② 施設が管理事務所から速やかに駆けつけることができる範囲であること。
③ 宿泊者の安全等を確保するためのマニュアルを整備すること。
具体的な審査事項等
前述した条文関係を前提として、実際に福岡市が審査する基準を解説します。各基準に対応した疎明資料として、旅館業許可を申請する際に添付書類を提出します。
「帳場の機能を代替する設備が設けられ,かつ,善良の風俗の保持を図るための措置が講じられていること」の各要件
(イ) ビデオカメラの設置場所は,次のとおりとする。
a 宿泊者が施設を出入りする映像が映る位置であること。 なお,施設が共同住宅の場合は部屋(例 101号室など)の玄関前,戸建住宅の場合は,建物の玄関前にビデオカメラを設置するこ と。
b 出入りする宿泊者の顔が認識できる位置であること。
(ウ) ビデオカメラ等は撮影した映像を 72 時間以上保存できるものであ ること。
(エ) モニターの設置場所は,管理事務所であって,かつ,営業者又はその代理人,使用人その他の従業者(以下,「従業者等」という。)が常時監視できる位置であること。
(イ) 建物の管理取扱責任についての署名は,次のとおり取扱うこと。 緊急時の連絡方法,火気使用機器の取扱い,火災発生時の初期対応,施設の施錠管理,ごみの処理等,建物の管理取扱責任について宿泊者に説明 のうえ,宿泊者の署名を取ること。
私は,○○に宿泊するにあたり,以下の事項についての説明を受けました。
□ 緊急時の連絡方法
□ 火気使用機器の取扱い
□ 火災発生時の初期対応
□ 施設の施錠管理
□ ごみの処理
氏名
ただし,次の事項をすべて満たす場合はこの限りでない。
・施設に旅館業の営業施設である旨が掲示されること。
・管理事務所において施設の所在場所を地図や外観写真等を用いて宿泊者に 説明すること。
・鍵の取扱い方法について宿泊者に説明後,鍵の引き渡しが行われること。
ただし,次の事項をすべて満たす場合はこの限りでない。
・施設に旅館業の営業施設である旨が掲示されること。
・その他の場所において施設及び管理事務所の所在場所を地図や外観写真等を 用いて宿泊者に説明すること。
・鍵の取扱い方法について宿泊者に説明後,鍵の引き渡しが行われること。
「事故が発生した場合その他緊急を要する場合に迅速に対応することができる体制が整備されていること」に関する要件
徒歩………………1分80メートル
自転車……………1分180メートル(目安)
バイク・自動車…1分250メートル(目安)
(ア) 管理事務所,警察署,消防署,医療機関等の連絡先(施設から管理事 務所までの経路が示された地図を含む)
(イ) 消火器等消防設備の設置場所及び使用方法
(ウ) 火気使用機器の使用方法及び注意事項等
(エ) ごみの処理方法
(オ) 建物の使用ルール
(カ) 避難経路
(キ) 災害時の避難場所(施設から避難場所までの経路が示された地図等) また,外国人宿泊者向けに外国語で記載されたもの(医療機関については外 国人の受診が可能な医療機関が記載されたもの)を整備するよう助言すること。
要件疎明資料(添付書類)
上記の要件に該当することを疎明する資料として、下記のような添付書類が要求されています。以下の記事では、各項目ごとに要求される添付書類を解説します。
○ 施設及び管理事務所でのビデオカメラ等の設置場所
条例改正後の解説記事で述べた通り、「平成24年4月1日付け厚生労働省健康局長通知」に準拠してビデオカメラによる記録が求められています。ここでいう「ビデオカメラ」の役割は、あくまでも玄関帳場における「宿泊者の出入りの状況確認」を代替するものです。チェックイン時の「本人確認」を代替するものではありません。
したがって、自動チェックイン機のような機器に付属したビデオカメラにより、対面での本人確認を代替することは認められません。この点は下記の記事で解説したとおりです。
○ 管理事務所から施設へ駆けつけるために使用する交通用具及び経路・時間
審査事項によれば「10分以内」とされています。この点は、京都市の基準である「20分以内」より若干厳しいので管理事務所設置場所には工夫が必要です。
なお、担当者によれば実地検査で実際に移動時間を計測することはなく、道路交通センサスの情報などを用いて計測する予定とのことです。申請にあたっては、詳細な疎明資料を用意して所轄保健所に対して説得的な説明を展開する必要があります。
○ 施設,管理事務所又はその他の場所において行う業務を第三者へ委託する場合は当該内容(事業者名,所在地,連絡先,委託内容)
○ 施設及び管理事務所での通話機器の設置場所
○ 宿泊者の安全等を確保するためのマニュアル
ここも多く質問を受ける点です。対面による本人確認とカギの交付は事業者自身が行う必要はなく、外部の業者に委託することも可能です。ただし、当該委託先と事業者の関係性を疎明する資料を用意する必要があります。この点についても、所轄保健所に対して説得的な説明を展開する必要があります。
トラブル防止施策
民泊サービスは住宅を活用したものであるため、近隣住民等とのトラブルが懸念されています。これらを未然に防止するため、民泊サービスを行うにあたっては次のことを実施するよう福岡市から通知が出されています。
近隣住民への周知
営業許可申請前に近隣住民に対し以下の事項について周知に努めること。
〔周知時期及び期間〕
許可申請予定日の3週間前から1週間前までの2週間
〔周知方法〕
対面又はポスティング
〔周知の範囲〕
当該共同住宅(棟)の全ての居住者やテナント
〔周知内容〕
・ 申請者氏名・連絡先(法人の場合は法人名及び代表者役職・氏名)
・ 旅館業を行う旨
・ 施設の部屋号数
・ 営業を開始する時期(予定)
・ 営業開始後の緊急連絡先
〇戸建住宅を活用した施設における近隣住民への周知
上記の共同住宅の場合に準じて周知に努めること。
施設の掲示
営業許可取得後すみやかに施設等において以下の内容の掲示に努めること。
・旅館業の営業許可施設である旨
・施設名(屋号)
・緊急連絡先
・責任者
〔掲示場所〕
【共同住宅の場合】 施設の玄関付近及び郵便受け
【戸建住宅の場合】 敷地の出入口付近
【管理事務所の場合】 事務所の玄関付近
〔掲示方法〕
・識別しやすい文字の色で表示
・鮮明に表示
〔文字の大きさ〕
90ポイント(おおむね縦横30mm)以上の大きさの文字
共同住宅の郵便受けに掲示する場合は,30ポイント(おおむね縦横10mm)以上の大きさの文字
苦情時の対応
近隣住民からの苦情等に対しては速やかかつ適切に対応を行うこと。