【簡易宿所】スマートロック活用で玄関帳場(フロント)の設置不要?「グレーゾーン解消」を行政書士が正確に解説します!

「グレーゾーン解消制度」による照会と回答

2017年8月16日に、経済産業省の公式サイトにて「民泊サービスの実施に係る旅館業法の取扱いが明確になりました」と題するニュースリリースがアップされました。

経済産業省公式サイト:民泊サービスの実施に係る旅館業法の取扱いが明確になりました~産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」の活用~

経済産業省が厚生労働省に照会し、得られた回答として掲載されている内容は以下のとおりです。

今般、事業者より、コンビニエンスストア等にチェックインポイントを設け、そこで入手した電子鍵により玄関の鍵の開閉を行うスマートロックを活用した民泊サービスとして簡易宿所営業の許可を受けるに当たり、旅館業法施行令上、その宿泊施設に玄関帳場(フロント)の設置が義務づけられるか照会がありました。

関係省庁が検討を行った結果、同法施行令において、玄関帳場(フロント)の設置基準は設けられていないことから、都道府県等が条例で定めた場合を除き、設置を義務づけるものではない旨の回答を行いました。

これにより、宿泊者の確認等に必要な業務のICT化が進み、2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据えた宿泊施設の不足解消につながる多様な民泊サービスの提供が推進されることが期待されます。

上記発表を受けて、「民泊ではフロント設置義務が無い」という内容を「経済産業省」が明確にしたとの一部報道がありますが、そのような理解は間違いです。今回の記事では、経済産業省担当者や厚生労働省担当者へのヒアリングを基に、正確な解説を行います。

論点は「旅館業法施行令」ではない

経済産業省サイトで示されている「活用結果」(前掲)に記載されている論点は、「簡易宿所営業の許可を受けるに当たり、旅館業法施行令上、その宿泊施設に玄関帳場(フロント)の設置が義務づけられるか」です。

しかし、旅館業法施行令には簡易宿所の構造設備基準において「玄関帳場」が規定されておらず、「簡易宿所営業の許可を受けるに当たり、旅館業法施行令上、その宿泊施設に玄関帳場(フロント)の設置は不要」であることは明白です。

すなわち、旅館業法施行令1条3項では、同条1項4号や同条2項4号のような「玄関帳場その他これに類する設備」という文言がありません。つまり、旅館業法施行令における簡易宿所営業の構造設備基準では「玄関帳場の設置」が要求されていないのです。

旅館業法施行令

第1条 (構造設備の基準)

旅館業法 (以下「法」という。)第三条第二項 の規定によるホテル営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
(略)
四  宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他これに類する設備を有すること。
(略)

2  法第三条第二項 の規定による旅館営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
(略)
四  宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他これに類する設備を有すること。
(略)

3  法第三条第二項 の規定による簡易宿所営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
一  客室の延床面積は、三十三平方メートル(法第三条第一項 の許可の申請に当たつて宿泊者の数を十人未満とする場合には、三・三平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること。
二  階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね一メートル以上であること。
三  適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四  当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること。
五  宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六  適当な数の便所を有すること。
七  その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。

条文上記載がないものについて「設置が義務づけられない」のは当然です。日本語が読めれば誰でもわかることでしょう。では、なぜ経済産業省は「グレーゾーン解消制度」の活用事例として公式サイトに掲載したのでしょうか。

それは、厚生労働省が旅館業法施行令の解釈指針として各都道府県知事や各政令市長などへ向けて出された「旅館業における衛生等管理要領」の文言が問題となったからです。

本当の論点は「旅館業における衛生等管理要領」

では、この「旅館業における衛生等管理要領」とは何でしょうか。

参考:旅館業における衛生等管理要領

この要領は、旅館業における施設、設備、器具等の衛生的管理、寝具等の衛生的取扱い、従業者の健康管理等の措置により、旅館業に関する衛生の向上及び確保を図り、併せて善良の風俗を保持することを目的として定められました。2010年12月5日に各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長宛に出された厚生省生活衛生局長通知である「公衆浴場における衛生等管理要領等について」の別添3として付されたものです。

要領の名宛人(各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長宛)を見ればわかるように、「旅館業における衛生等管理要領」は旅館業事業者宛に出されたものではなく、行政の内部連絡として出されたものです(いわゆる「通達」)。

この点につき、行政の内部連絡である「通達」などは、行政法学上の「行政規則」と呼ばれ、講学上の「法規」たる性質を持ちません。

すなわち、この「行政規則」は、講学上の「法規」たる性質を有する「法規命令」とは区別され、行政と私人との権利義務関係を規律することはできません。

つまり、「行政規則」である「旅館業における衛生等管理要領」は、一般私人である民泊事業者を拘束する効力は無いのです。

一般私人を拘束することがない「旅館業における衛生等管理要領」について触れた回答を掲載するのは適切ではないため、「グレーゾーン解消制度」の発表では、この点について触れていないのだと考えられます。

「旅館業における衛生等管理要領」は2016年に一部改正された

旅館業法施行令が改正され、2016年4月1日から施行されました。この点については下記の記事で解説しています。

簡易宿所型民泊はフロント設備不要へ緩和(2016年簡易宿所構造設備基準緩和について)

これに合わせて、その解釈指針である「旅館業における衛生等管理要領」も一部改正されました。従来は「適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けること。」とされていたものが、「適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けることが望ましいこと。」と改正されたのです。

これは、民泊サービスについて、簡易宿所の枠組みを活用して法に基づく許可取得の促進を図る観点から、玄関帳場を不要とする趣旨で改正したものです。ただし、玄関帳場が設置可能な場合には設置するに越したことはないために、条文の最後部に「望ましい」を追加して改正したと考えられます。

改正内容をまとめると、以下の表のとおりです。

旅館業における衛生等管理要領 新旧対照表
改正後
Ⅰ (略)
Ⅰ (略)
Ⅱ 施設設備
Ⅱ 施設設備
 第1 (略)
 第1 (略)
 第2 簡易宿所営業の施設設備の基準
 第2 簡易宿所営業の施設設備の基準
  1 客室は、次の要件を満たす構造設備であること。
  1 客室は、次の要件を満たす構造設備であること。
  (1)~(12) (略)
  (1)~(12) (略)
  2 (略)
  2 (略)
  3 適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けることが望ましいこと 。その他「第1 ホテル営業及び旅館営業の施設設備の基準」の11(玄関帳場又はフロント)に
  3 適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けること。その他「第1 ホテル営業及び旅館営業の施設設備の基準」の11(玄関帳場又はフロント)に準じて設けること。
  準じて設けることが望ましいこと 。 ただし、宿泊者の数を10人未満として申請がなされた施設であって、次の各号のいずれにも該当するときは、これらの設備を設けることは要しないこと。
   (1) 玄関帳場等に代替する機能を有する設備を設けることその他善良の風俗の保持を図るための措置が講じられていること。
   (2) 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。
  4~11 (略)
  4~11 (略)

一般私人を拘束しないはずである「旅館業における衛生等管理要領」が問題になったのは、どのよう理由からでしょうか。

「旅館業における衛生等管理要領」は行政の解釈指針となる

前述の通り、「旅館業における衛生等管理要領」は行政規則であり「法規」たる性質を有しないため、私人である民泊事業者を拘束しません。そのため、「グレーゾーン解消制度」の発表においても「旅館業における衛生等管理要領」については一切触れられていません。

しかし、「旅館業における衛生等管理要領」が私人である民泊事業者に対して間接的に不利益をもたらすことがあります。それは、都道府県や政令市では旅館業法施行令の解釈基準として内部的に「旅館業における衛生等管理要領」を参照し、その解釈に基づいて旅館業許可申請人(民泊事業者)に対して行政指導を実施するからです。

すなわち、旅館業法施行令では簡易宿所について玄関帳場設置を求める規定がないですが、旅館業における衛生等管理要領では簡易宿所においても「玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けることが望ましい」と規定されています。

そのため、上記要領に基いて、旅館業許可申請者に対して簡易宿所に玄関帳場を設置するよう行政指導を行うことがあったようです(行政手続法32条)。

しかしながら、既に繰り返し解説しているとおり「旅館業における衛生等管理要領」に法規性はありません。また、行政指導は「相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであ」り(行政手続法32条)、これに従う義務はありません。

よって、玄関帳場を設けるよう行政指導を受けたとしても、それを拒否すれば足りる問題です(行政手続法36条の2)。行政法を正しく理解していれば、経済産業省が今回発表した「グレーゾーン解消制度」による回答を援用しなくても、法律レベルでは簡易宿所には玄関帳場は不要です。

今回の発表が重大事項であるかのように取り上げる民泊メディアが多いですが、行政法の理解が足りないと言わざるを得ません。

それでもやはり「玄関帳場」が必要なケースは多い

上で論じたとおり、今回の発表には実質的な意義はありません。それにもかかわらず、「簡易宿所では玄関帳場が不要になった」と経済産業省がお墨付きを与えたかのような錯誤を与える記事が、理解不足な民泊メディアでは多く見られます。

旅館業法に基づく旅館業法施行令では簡易宿所に玄関帳場設置義務はありませんが、それとは別に上乗せ条例の問題が残ります。法律と条例の関係が問題となります。

上乗せ条例の論点については「法律が認めても条例が民泊を許さない!法律より厳しい条例規制【上乗せ条例】の問題を解説します」を御覧ください。

法律が認めても条例が民泊を許さない!法律より厳しい条例規制【上乗せ条例】の問題を解説します

玄関帳場について問題となるのは上乗せ条例がある地域です。この点については、今回の「グレーゾーン解消制度」による回答でも何ら解決しません

旅館業法施行令でも1条3項7号で「その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。」と記載されており、条例で構造設備として玄関帳場の設置が義務付けられれば、それに適合する必要があります。

よって、条例で玄関帳場の設置が義務付けられている地域では、その条例が改正されない限り玄関帳場の設置義務は無くなりません。

「グレーゾーン解消制度」とは?

事業者が、既存の法令が想定していない新たな事業に取り組むケースでは、当該事業が法令に基づく規制の適用の対象となるかどうかが明確でない場合があります。例えば、今回検討された「コンビニエンスストア等にチェックインポイントを設け、そこで入手した電子鍵により玄関の鍵の開閉を行うスマートロックを活用した民泊サービス」は旅館業法が想定していない新しい事業形態といえます。

グレーゾーン解消制度は、そうした場合に、事業所管大臣を経由して、規制所管大臣に対し、個別の事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認することができる制度です。今回の場合には、「コンビニエンスストア等にチェックインポイントを設け」て行う事業は経済産業省の所管です(事業所管)。それに対して、旅館業法を所管するのは厚生労働省です(規制所管)。

グレーゾーン解消制度の特長は、規制の適用の有無について、事業所管省庁(今回は経済産業省)が、規制所管省庁(今回は厚生労働省)に問い合わせることにあります。事業者から直接規制所管省庁に照会する場合には、その事業者にとって大変な困難が伴います。すなわち、今回の件であれば旅館業法のどの部分が論点になるか事業者自身が法解釈を行い、規制所管省庁の担当部署へ直接問い合わせを実施するのは困難です。

そこで、この制度では、事業者を支援する事業所管省庁が、事業者に代わって、規制所管省庁に対して照会を行います。

民泊に関連する新規事業を検討している場合に、旅館業法や住宅宿泊事業法に適合しているか否かを判定するのに非常に有益な手段です。適法性に疑義がある場合には、専門の行政書士に相談しながらグレーゾーン解消制度の利用を検討すると良いでしょう。

「グレーゾーン解消制度」の提出書類

グレーゾーン解消制度を利用する際には、下記の内容を記載した「照会書」を提出します。

1.新事業活動及びこれに関連する事業活動の目標
(1)事業目標の要約、(2)生産性の向上又は新たな需要の獲得の見込み
2.新事業活動及びこれに関連する事業活動の内容
(1)事業概要、(2)事業実施主体、(3)新事業計画を実施する場所、(4)その他
3.新事業活動及びこれに関連する事業活動の実施時期
4.解釈及び適用の有無の確認を求める法令等の条項
5.具体的な確認事項
6.その他

規制の根拠となっていると考えられる法令等(規制に関連する告示・通達等を含む。)の名称、関係する条項等を記載する必要があります。

また、現状では規制の根拠となる法令がどのような規定となっており、そのうち、どの部分の解釈が明らかでないのか、新事業活動が規制の対象となるのか否かが判断できないポイントや、それによって新事業活動を行うことが難しい理由に加え、そのことに関する自己の見解を具体的に記載する必要があります。

規制所管省庁から明確かつわかりやすい回答を得るためには、確認したいポイントを、できる限り具体的に記載すべきです。これらの書面を的確に作成するためには、専門の行政書士に依頼すべきです。


特定行政書士 戸川大冊
small早稲田大学政治経済学部卒/立教大学大学院法務研究科修了(法務博士)
民泊許可手続の第一人者。日本全国の民泊セミナーで登壇し累計850人以上が受講。TVタックルで民泊について解説。政治法務の専門家行政書士として日本全国の政治家にクライアントが多数。 民泊を推進する日本全国の自治体政治家や国会議員にネットワークを持つ、日本で唯一の行政書士。
ビートたけしのTVタックル、NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」など多数のテレビ番組に取り上げられている。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、週刊誌などでも掲載多数。

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