建築物の用途とは?
建築基準法で定めらてた「建築物の用途」
「建築物の用途」とは、その建築物の使い方を指します。建築基準法では建築物の用途に関する規定が設けられており、建築確認申請の際には、当該建物の主要用途を明記する必要があります。例えば、一般的な一軒家は建築基準法上の「住宅」に、マンションは建築基準法上の「共同住宅」に該当します。
映画館など多数の人が集う建築物や衛生上・防火上特に規制すべき建築物など、建築物のなかでも特殊な用途を持つ建築物を「特殊建築物」と呼びます(建築基準法第2条1項2号参照)。
第2条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
「民泊」はどの建築物の用途になる?
先ほど解説したとおり、一般的な住宅やマンションは建築基準法上の「住宅」や「共同住宅」に該当します。他方で、いわゆる「民泊」のように人を宿泊させる営業は「旅館業」であり、建築基準法上の「ホテル又は旅館」に該当します。
いわゆる「民泊」が旅館業に該当することについては、合法民泊の解説記事をご確認ください。
建築物の用途変更とは?
建築物の用途変更とは、建築物の用途を当初の用途から他の用途に変更することをいいます。例えば、「共同住宅」を「旅館」に変えることも,「旅館」を「共同住宅」に変えることも,いずれも用途変更となります。その際に、既存建築物が建築基準法に抵触し違反建築物となることがあります。
既存の建物の用途を変更して使用する場合には、建築基準法の規定に適合させるとともに、確認申請の手続きが必要となる場合があります。したがって、法的なチェックや手続きを専門家に依頼する必要があります。
用途変更が必要な場合
既存建築物の用途を変更して、200 ㎡を超える建築法第6条第1項第 1 号の特殊建築物とする場合は、用途変更の確認申請及び工事完了の届け出が必要です(法第 87 条第 1 項)。
例えば、共同住宅だった200㎡を超える既存建築物を転用して簡易宿所型民泊施設にする場合には、用途変更の手続きが必要です。
建築基準法が適用される行為は「建築、大規模な修繕・模様替え」ですが、「用途変更」はこれらに含まれないので適用がないことになります。しかし、用途の変更が自由に行えるとなると建築行為等の制限を課したことが意味を成しません。そこで、建築基準法第87条は「用途変更」に対して建築行為等に関する一定の規定を準用することとしたものです。
なお、2019年以前は100㎡を超える場合に用途変更の手続きが必要でした。そのため、情報が古いサイトや書籍などでは「100㎡」と記載されていることがあるので注意してください。
特殊建築物とは
物販店舗、飲食店、旅館など不特定多数の者が利用する施設や、倉庫、自動車 車庫など災害の危険性がある施設を指します(建築基準法第 2 条第 2 号,同法第 6 条第 1 項第 1 号,同法別表第 1(い)欄)。
建築基準法第6条1項一号で規定されている、別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物は以下のものを指します。
前述の通り、既存建築物の用途を変更して100 ㎡を超える特殊建築物とする場合は、用途変更の確認申請及び工事完了の届け出が必要です(法第 87 条第 1 項)。ただし,建築基準法施行令第 137 条の 18 で定める以下の各号内での「類似の用途」相互間は手続きは不要です。
なお、用途変更の確認申請が不要な場合も,法の規制は適用されます。 したがって、建築物は建築基準法に合致させる必要があります。
既存建築物全体の適法性
100㎡以上の大規模な民泊を実施するために用途変更の手続きをすすめるには、既存建築物全体が適法に建築・維持されたものでなければいけません。既存建築物の用途変更は、当該既存建築物全体の適法性を前提とします。
既存建築物が適法であるかどうかは、
1.検査済証の交付を受けているか
2.建築後,改装や用途変更等で違反が生じていないか
を確認する必要があります。検査済証を受けていない場合や,受けていてもその後違反状態となっている場合は、その是正が必要となります。
用途変更部分の適法性
用途規制
用途変更部分はその用途を現行法に適合させる必要があります (建築基準法第 87 条第 2 項)。例えば、第一種低層住居専用地域に旅館を建てることは出来ません。
規定適合
用途変更に伴い、これまで対象でなかった建築基準法上の規定が新たに対象となる場合は、その規定に適合させる必要があります(建築基準法第 8 条)。
平成9年9月1日以降に新築・増築された共同住宅は、建築基準法改正により共用部分の面積が容積不算入の扱いを受けている可能性が高くなっています。そのため、「共同住宅」から「ホテル・旅館」に用途変更を行うと、共同住宅に適用されていた容積率の緩和が適用されなくなり、容積率の上限を超えることがあるので特に注意が必要です。
面積を算定する上での階段・共用廊下・エレベーターなどの取り扱いについては必ず専門家に御相談ください。
既存不適格建築物への現行規定の適用(既存遡及)
既存不適格建築物の場合、用途変更する部分以外も防火区画の状況に応じて既存不適格事項を現行規定に適合させること(既存遡及)が必要です(建築基準法第 87 条第 3・4 項)。
用途変更はコストがかかる
以上の通り、既存建築物の用途変更は時間や金銭的なコストがかかります。用途変更を前提とした民泊事業を検討されている方は、用途変更のコストを踏まえて工程表を作成する必要があります。
完了検査を受けていない場合でも用途変更は可能
完了検査を受けていないため、建築物の用途変更が出来ないのではないかとの相談を数多くいただきます。
この場合には、指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査適合状況調査を実施することにより用途変更を行うことが可能な場合もあります。建築時に発生した書類を可能な限り揃えてご相談ください。担当の建築士を交えて、建築基準法上の用途変更や旅館業許可申請が可能か否か調査いたします。
弊所では、建築士やリフォーム業者と協同して、全ての用途変更手続きにワンストップで対応しています。用途変更を検討されている方は是非ご相談ください。
消防法施行令別表第1の「用途」と混同しないこと
この記事で解説したのは、建築基準法上の建物用途についてです。この建築基準法上の建物用途と混同しやすいものに、「消防法施行令別表第1」に記載された用途があります。これは消防法令上の用途であり、建築基準法上の用途と全て一致するものではありません。
特に注意が必要なのが、住宅宿泊事業(新法民泊)における取り扱いです。住宅宿泊事業は建築基準法上は「住宅」ですが、消防法令上は宿泊施設(5項イ)になります。
消防署で消防法令について相談すると、「住宅宿泊事業法を開業するなら用途変更が必要だ」と言われますが、その用途変更とは防火対象物としての用途変更です。消防署担当者の説示によって大混乱に陥る相談者が多いので注意しましょう。