国家戦略特区(国家戦略特別区域)では、一定の場合には「旅館業法」の適用が除外されます。この記事では、【国家戦略特区内】で旅館業法の適用が除外される要件を説明しています。
国家戦略特区での民泊(特区民泊)を制度化するためには、自治体で条例を制定することが必要です。本サイトでは各地の特区民泊条例についても解説しています。そちらも御覧ください。
【国家戦略特区外】旅館業法による規制
宿泊期間が1ヵ月未満の施設では原則として旅館業法が適用されます。
→旅館業法に基づく営業許可は都道府県(保健所設置市又は特別区については、当該市又は特別区)が運用
国家戦略特区の外では、従来の原則通り宿泊施設に対して「旅館業法」が適用されます。したがって、民泊施設に関しても旅館業法の営業許可が必要です。
- フロントの設置、宿泊者名簿の作成義務
- 衛生管理、保健所による立入検査 など
旅館業法が適用されるか否かは、民泊に旅館業法の許可が必要かどうかの「判断基準」を御確認ください。
上記のような旅館業法上の規制以外にも、消防法や建築基準法による規制もクリアする必要があります。一般の住宅と異なり、「旅館」に関しては消防法や建築基準法で多くの規制が設けられています。
【国家戦略特区内】国家戦略特別区域法の特例(特区民泊許可)
国家戦略特区内で特定認定を受けると、特区民泊の実施が可能です。
国家戦略特区(特区)とは?
国家戦略特区は、産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るため、いわゆる岩盤規制全般について突破口を開いていくものです。この「岩盤規制」には旅館業も含まれ、国家戦略特区の中では旅館業のに代わって「特区民泊」が認められています。
特区民泊とは?
特区民泊制度は、国家戦略特区法に基づき、外国人観光客の滞在ニーズに対応するため、「外国人滞在施設経営事業」として創設されました。
国家戦略特別区域会議が、国家戦略特区法の特定事業を定めた区域計画について、内閣総理大臣の認定を受けます。内閣総理大臣の認定日以後は、国家戦略特区法の特区民泊を行おうとする者は、その事業について都道府県知事の特定認定を受けることにより、その事業には、旅館業法の規定は適用されません。
したがって、特区民泊が認められた地域内では誰でも無条件に「民泊」を実施できるわけではありません。特区民泊の手続に従って「認定」を受けなければ、無許可営業でなり犯罪です。特区民泊の実施が可能とされている地域であっても、「特区民泊」の届出が必要です。
- 東京都、神奈川県及び千葉県成田市
- 大阪府、兵庫県及び京都府
- 新潟市
- 養父市
- 福岡市・北九州市
- 沖縄県
- 仙台市
- 愛知県
- 広島県・今治市

特区民泊の沿革
2013年
- 国家戦略特区法制定(法律第107号)
- 第13条で外国人滞在施設経営事業の枠組みを規定
2014年
- 国家戦略特区法施行令制定(政令第179号)
- 第12条で具体的な基準を規定
2016年
- 大田区が全国初の特区民泊として認定区域に指定
- 大阪府・大阪市が続いて指定
特区民泊の定義
特区民泊の定義は、国家戦略特別区域法13条で規定されています。特区民泊の最大のネックは、ここで規定された最低宿泊期間の「3日~10日」です。この期間が短縮されれば、特区民泊は劇的に使い勝手が向上します。将来的には最低宿泊期間が短縮される見込みですので、一日も早い改正を期待したいです。
さらに、「外国人旅客の滞在に適した施設」を用意することが求められます。具体的には、多言語対応や周辺住民からの苦情受付窓口の設置等です。この点は、次の「要件」で挙げます。
国家戦略特別区域において、外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき一定期間以上使用させるとともに当該施設の使用方法に関する外国語を用いた案内その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供する事業(その一部が旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する旅館業に該当するものに限る。)として政令で定める要件に該当する事業
国家戦略特別区域法第13条
特区民泊の要件
特区民泊を実施するための要件(条件)は、国家戦略特別区域法施行令に規定されています。居室の最低面積や必要な構造設備が挙げられていますが、全体的にみて旅館業法による「旅館・ホテル」営業や「簡易宿所」営業の基準よりは緩いといえます。
基本要件
項目 | 要件内容 | 根拠条文 |
---|---|---|
滞在期間 | 3日以上(2泊3日以上)の継続使用 | 国家戦略特区法施行令第12条第1号 |
対象地域 | 国家戦略特区として指定された区域内 | 国家戦略特区法第13条第1項 |
事業内容 | 外国人旅客の滞在に適した施設の賃貸借 | 国家戦略特区法第13条第1項 |
施設基準
分類 | 要件 | 詳細 | 根拠条文 |
---|---|---|---|
建物種別 | 一戸建て住宅又は共同住宅 | 住宅として使用可能な建物 | 施行令第12条第2号イ |
面積要件 | 一戸建て:延べ面積25㎡以上 共同住宅:一戸当たり25㎡以上 | – | 施行令第12条第2号ロ |
居室面積 | 各居室の床面積7㎡以上 | 事業に供する居室について | 施行令第12条第7号 |
設備要件 | 台所・浴室・便所・洗面設備 | 各設備の設置が必須 | 施行令第12条第2号ハ |
環境設備 | 換気・採光・照明・防湿・排水・暖房等 | 適切な居住環境の確保 | 施行令第12条第2号ハ |
安全・衛生基準
項目 | 要件 | 根拠条文 |
---|---|---|
建築基準法適合 | 建築基準関係規定への適合 | 施行令第12条第5号 |
消防法適合 | 消防法その他法令規定への適合 | 施行令第12条第6号 |
構造安全性 | 適切な構造・設備基準の遵守 | 施行令第12条第7号 |
営業者要件
項目 | 要件 | 詳細 | 根拠条文 |
---|---|---|---|
欠格事由 | 欠格事由に該当しないこと | 住宅宿泊事業法第4条各号を準用 | 施行令第12条第8号 |
営業能力 | 事業を適切に遂行できる能力 | – | 施行令第12条第8号 |
運営要件
項目 | 要件 | 詳細 | 根拠条文 |
---|---|---|---|
宿泊者名簿 | 宿泊者名簿の備付け・保存 | 宿泊者情報の適切な管理 | 施行令第12条第7号 |
認定手続 | 内閣総理大臣の認定取得 | 実際は各特区自治体が窓口 | 国家戦略特区法第13条第1項 |
旅館業法特例 | 旅館業法第3条第1項の許可を受けたものとみなす | 旅館業許可手続きが不要 | 国家戦略特区法第13条第2項 |
制度比較表
項目 | 特区民泊 | 住宅宿泊事業法 (民泊新法) | 旅館業営業許可 (簡易宿所営業) |
---|---|---|---|
滞在期間 | 3日以上(2泊3日以上) | 制限なし(1泊から可能) | 制限なし(1泊から可能) |
営業日数 | 制限なし(年間365日可能) | 年間180日以内 | 制限なし(年間365日可能) |
実施地域 | 指定された特区内のみ | 全国 | 全国 |
許可・届出 | 認定制(許可制相当) | 届出制 | 許可制 |
法的位置づけ | 旅館業法の特例 | 独立した法制度 | 旅館業法に基づく営業 |
用途地域制限 | 住居系用途地域でも可能 | 住居系用途地域でも可能<br>(条例による制限あり) | 用途地域による制限あり<br>(住居専用地域は原則不可) |
施設基準 | 住宅としての基準 (25㎡以上等) | 住宅としての基準 (3.3㎡/人等) | 旅館業としての基準 (3.3㎡/人、帳場設置等) |
管理体制 | 営業者による管理 | 管理業者への委託可能 | 営業者による管理 |
監督官庁 | 内閣府・各特区自治体 | 都道府県・保健所設置市 | 都道府県・保健所設置市 |
フロント設置 | 不要 | 不要 | 原則必要(代替措置可) |
営業時間 | 制限なし | 制限なし | 制限なし |
※事業で用いる「施設」が外国人旅客の滞在に適したものであることを求めているが、施設の「利用者」については何ら規定を設けていない(日本人でも利用OK)。
特区民泊の認定基準
上に挙げた「特区民泊の要件」に合致しているか否かを具体的に認定する際の基準が、「認定基準」です。国家戦略特区内で特区民泊を実施するためには、各地の知事等の定めた認定基準に合致し、特定認定を得ることが必要です。現在は、大田区・大阪市・大阪府で特区民泊が開始しています。
上記の自治体以外では、特区内であっても特区民泊の認定基準が制定されていないため、特区民泊の実施は不可です。詳細については、資格を持った行政書士にご相談ください。
特区民泊特定認定申請の必要書類
[ip5_coloredbox color=”colored-box–red” width=””]特区民泊の特定認定に必要な書面を列記します。必要書類は、各自治体によって異なります。特区民泊の特定認定を申請しようと考えている自治他の手引をご確認ください。申請書類の作成は、資格を持った特定行政書士にご依頼ください。[/ip5_coloredbox]以下では、東京都大田区の申請書類を例に説明します。
[ip5_box size=”box–large” title=”特区民泊特定認定申請書” title_size=”” width=””]- 施設の名称
- 施設の所在地
- その行おうとする事業の内容
- 構造設備の概要並びに各居室の床面積、設備及び器具の状況
- 施設内の清潔保持の方法
- 外国人旅客の滞在に必要な役務の内容および当該役務を提供するための体制
などを記載する。
[/ip5_box]
[ip5_box size=”box–large” title=”添付書類” title_size=”” width=””]
- 申請者確認書類
個人の場合は住民票の写し。
法人の場合は定款または寄附行為及び登記事項証明書。
外国人の場合で住民票の写しを添付できない場合は、申請者の実在性を確認できる書類(証明書類は6ヶ月以内のもの) 。 - 契約約款
民泊施設に関する賃貸借契約及びこれに付随する契約に係る約款。
外国語表記とその日本語訳が必要。
以下の内容を全て盛り込む。
(ア) 7日以内の解約できない旨(やむを得ない事情等でキャンセルがあり、実際の滞在は7日未満であっても、契約期間中の重複した別契約は認められない。)
(イ) 施設滞在者は、日本語又は対応外国語に対応できる者であること。
(ウ) 日本に住所を有しない外国人は旅券、日本人及び日本に住所を有する外国人の場合は、旅券又は運転免許証等の身分証明書の呈示を義務付ける条項
(エ) 施設使用の際の注意事項を遵守する条項
(オ) 対応できる外国語の種類
(カ) 各施設で提供する役務 - 図面
施設の構造設備を明らかにする図面。
換気設備、採光、暖房、冷房、台所、浴室、便所及び洗面設備の記載のある平面図等。 - 滞在者名簿の様式
滞在者の滞在期間、氏名、住所、連絡先及び職業並びにその国籍及び旅券番号の項目を備えた様式を用意する。 - 権原証明書類
当該民泊施設を事業に使用するための正当な権利を証明する書類。
施設にかかる不動産登記事項証明書または施設所有者と申請者との間の賃貸借契約書、転貸を承諾する書面など。 - 周知状況説明書面
近隣住民への周知に関する説明書面。
近隣住民への周知作業で使用した書面及びどのように周知、説明、近隣住民の理解を得たかを記載した状況説明書面。 - 消防法令書面
消防法令で定める手続きを行ったことが確認できる書類。消防法令適合通知書を添付する。