【消防法】物件選定前に必見!民泊許可申請や届出で注意すべき消防用設備等の工事とは?

民泊許可と消防法

民泊許可を申請する場合には、特区民泊であっても簡易宿所型民泊であっても消防法令に適合していることを証する書面を添付する必要があります。

この記事では、一般のと住宅を利用して民泊を開始する場合に対応すべき消防法上の論点を整理します。(別表の画像とイラスト図画像は消防庁の資料より引用)

民泊における消防法の考え方

消防法の規定は、一戸建てなどの「一般住宅」とマンションなどの「集合住宅」で扱いが異なります。まず、消防法の基本的な考え方を示します。

消防法上の防火対象物

消防法令においては、火災予防の主たる対象を示す用語として、「防火対象物」という語が用いられています。

この「防火対象物」は、消防法施行令の「別表第1」において用途による区分が設けられています。これは、防火対象物の全般的な危険性を考慮して分類されたものです。この用途区分の中で、戸建住宅などの「一般住宅」を除いて様々な用途の建築物、工作物等がほぼ網羅的に列記されています。

民泊などの宿泊施設は「旅館・ホテル・宿泊所」にあたり単体では5項イに該当しますが、同一の建物に他の用途部分がある場合には「複合用途防火対象物」となり全体として16項イになります。

防火対象物一覧

一般住宅の消防法令上での位置付け

戸建住宅については、個人の責任において火災予防が図られるべきとの趣旨から、消防法施行令別表第1に列記されていません。したがって、従来は基本的に消防法令の適用対象外と位置づけられていました。

しかし、住宅火災による死者低減の観点から、新たに法第9条の2の規定が整備され、住宅用火災警報器等の設置義務化が図られました。なお、この法改正後も消防法施行令別表第1には列記されず、一戸建などの一般住宅は防火対象物とはなっていません。

したがって、戸建住宅などの一般住宅は、防火対象物である集合住宅などに比べて消防設備が未整備であり、消防署へ個別の届出もされていません(防火対象物使用開始届)。

よって、民泊許可取得のために消防署へ事前相談に行ったとしても、一般住宅については管轄消防署にも個別資料が無いことが大半です。

集合住宅の消防法令上での位置付け

マンションなどの集合住宅は、別表1における5項ロに該当します(「共同住宅」)。したがって、当該マンションの新築時には消防法令で必要となる各種の消防設備を設置し、消防署の検査に合格しているはずです。

したがって、マンションなどの集合住宅は、築年による差はあるとしても一定水準以上の消防設備が備わっている上、管轄消防署への届出もなされているのが通常です(防火対象物使用開始届)。ただし、元は住宅だったものを改築して店舗に転用した物件などは届出がない場合もあります。特に、繁華街の飲食店などでは注意が必要です。

建物の一部で民泊を実施すると用途が項目が変わる

上記の通り、一般住宅は防火対象物とならず、集合住宅は別表1における5項ロに該当します(「共同住宅」)。一方で、建物全体が旅館やホテルの場合には「旅館・ホテル・宿泊所」にあたり、別表1における5項イに該当します。

しかし、一般的に「民泊」は建物の一部を使って実施されることが多いですが、同一の建物内に「旅館・ホテル・宿泊所」と他の用途が併存する場合には「複合用途防火対象物」となり全体として16項イになります。

民泊で対応すべき防火安全対策

旅館、飲食店や複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設(以下「消防用設備等」といいます。)について消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従って、設置及び維持をしなければなりません。

ホテル・旅館などについては、下記のような「消防用設備等」の設置が義務づけられています。「消防用設備等」については、半年ごとに点検を実施し、1年ごとに消防機関(市町村の消防本部・消防局または消防署)に報告することが義務づけられています。

消火設備の設置義務

大半の消防設備は大規模な物件の場合のみに設置が義務付けられますが、消火器については延床面積150㎡以上の場合に設置が必要です。設置基準は以下の通りです。

警報設備の設置義務

平成24年5月に発生した広島県福山市でのホテル火災により、多数の死傷者が出ました。この火災を踏まえ、就寝中は宿泊者が火災に気付くのが遅れて避難が困難になることから、規模にかかわらず全ての宿泊施設に自動火災報知設備の設置が義務付けられることとなりました。

ただし、小規模な宿泊施設には特定小規模施設用自動火災報知設備が設置できます。特定小規模施設用自動火災報知設備が設置できる宿泊施設は、延べ面積(各階の床面積の合計)が300㎡未満の宿泊施設です。3階建以上は設置できない場合がありますので注意が必要です。

特定小規模施設用自動火災報知設備について、詳しくはこちらのページを御確認ください

避難設備の設置義務

誘導灯とは?

誘導灯は、大きく分けて「避難口誘導灯」と「通路誘導灯」に分かれます。

避難口誘導灯は、緑色の地色に白色の矢印で避難出口の場所を示す誘導灯です。この誘導灯は、直接外部に通じる扉、階段に通じる扉などにおいて、避難口の上部に設置して避難口を指し示します。避難上有効な避難口の位置を明示するために使用するものです。

通路誘導灯は、白色の地色に緑色の矢印で避難出口のある方向を指し示す誘導灯です。この誘導灯は、廊下や階段、通路などに設置する通路用のもので、避難方向を明示するために使用します。通路にあっては避難口誘導灯が視認できない曲がり角などに設置し、避難口のある方向を明示します。

消防法施行規則第二十八条の三 (誘導灯及び誘導標識に関する基準の細目)

3  避難口誘導灯及び通路誘導灯は、各階ごとに、次の各号に定めるところにより、設置しなければならない。

一  避難口誘導灯は、次のイからニまでに掲げる避難口の上部又はその直近の避難上有効な箇所に設けること。

イ 屋内から直接地上へ通ずる出入口(附室が設けられている場合にあつては、当該附室の出入口)
ロ 直通階段の出入口(附室が設けられている場合にあつては、当該附室の出入口)
ハ イ又はロに掲げる避難口に通ずる廊下又は通路に通ずる出入口(室内の各部分から容易に避難することができるものとして消防庁長官が定める居室の出入口を除く。)
ニ イ又はロに掲げる避難口に通ずる廊下又は通路に設ける防火戸で直接手で開くことができるもの(くぐり戸付きの防火シャッターを含む。)がある場所(自動火災報知設備の感知器の作動と連動して閉鎖する防火戸に誘導標識が設けられ、かつ、当該誘導標識を識別することができる照度が確保されるように非常用の照明装置が設けられている場合を除く。)

二  通路誘導灯は、廊下又は通路のうち次のイからハまでに掲げる箇所に設けること。

イ 曲り角
ロ 前号イ及びロに掲げる避難口に設置される避難口誘導灯の有効範囲内の箇所
ハ イ及びロのほか、廊下又は通路の各部分(避難口誘導灯の有効範囲内の部分を除く。)を通路誘導灯の有効範囲内に包含するために必要な箇所 

誘導灯が免除可能な場合

小規模な建物で民泊を実施する場合には、居室の各部分から避難口が容易に見渡せ、識別できるような建築物の場合、誘導灯の設置が免除可能です。消防法の防火対象物における「無窓階」「地階」では誘導灯の免除はできません。「無窓階」「地階」以外において、誘導灯が免除可能な要件は以下のとおりです。

消防法施行規則第二十八条の二 (誘導灯及び誘導標識を設置することを要しない防火対象物又はその部分)

令第二十六条第一項 ただし書の総務省令で定めるものは、避難口誘導灯については、次の各号に定める部分とする。

一  令別表第一(一)項から(十六)項までに掲げる防火対象物の階のうち、居室の各部分から主要な避難口(避難階(無窓階を除く。以下この号及び次項第一号において同じ。)にあつては次条第三項第一号イに掲げる避難口、避難階以外の階(地階及び無窓階を除く。以下この条において同じ。)にあつては同号ロに掲げる避難口をいう。以下この条において同じ。)を容易に見とおし、かつ、識別することができる階で、当該避難口に至る歩行距離が避難階にあつては二十メートル以下、避難階以外の階にあつては十メートル以下であるもの

二  (略)

三  前二号に掲げるもののほか、令別表第一(一)項から(十六)項までに掲げる防火対象物の避難階にある居室で、次のイからハまでに該当するもの

イ 次条第三項第一号イに掲げる避難口(主として当該居室に存する者が利用するものに限る。以下この号、次項第二号及び第三項第三号において同じ。)を有すること。
ロ 室内の各部分から、次条第三項第一号イに掲げる避難口を容易に見とおし、かつ、識別することができ、室内の各部分から当該避難口に至る歩行距離が三十メートル以下であること。
ハ 燐光等により光を発する誘導標識(以下この条及び次条において「蓄光式誘導標識」という。)が消防庁長官の定めるところにより設けられていること。

四  (略)

五  前各号に掲げるもののほか、小規模特定用途複合防火対象物(令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項又は(九)項に掲げる防火対象物の用途以外の用途に供される部分が存しないものを除く。)の地階、無窓階及び十一階以上の部分以外の部分

2  令第二十六条第一項 ただし書の総務省令で定めるものは、通路誘導灯については、次の各号に定める部分とする。

一  令別表第一(一)項から(十六)項までに掲げる防火対象物の階のうち、居室の各部分から主要な避難口又はこれに設ける避難口誘導灯を容易に見とおし、かつ、識別することができる階で、当該避難口に至る歩行距離が避難階にあつては四十メートル以下、避難階以外の階にあつては三十メートル以下であるもの

二  前号に掲げるもののほか、令別表第一(一)項から(十六)項までに掲げる防火対象物の避難階にある居室で、次のイ及びロに該当するもの

イ 次条第三項第一号イに掲げる避難口を有すること。
ロ 室内の各部分から次条第三項第一号イに掲げる避難口又はこれに設ける避難口誘導灯若しくは蓄光式誘導標識を容易に見とおし、かつ、識別することができ、室内の各部分から当該避難口に至る歩行距離が三十メートル以下であること。

三  (略)

四  前三号に掲げるもののほか、小規模特定用途複合防火対象物(令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項又は(九)項に掲げる防火対象物の用途以外の用途に供される部分が存しないものを除く。)の地階、無窓階及び十一階以上の部分以外の部分

五  (略)

防火管理

従業員と宿泊定員を合わせて30人以上となる「旅館・ホテル・宿泊所」は、防火管理者の選任、消防計画の作成、消防訓練の実施などが義務づけられています。

また、こうした防火管理が適切に行われるよう、1年に1回、防火対象物点検資格者(総務大臣の登録を受けた登録講習機関が行う講習を修了し、免状の交付を受けた者)による点検を受け、その結果を消防機関に報告する「防火対象物点検報告制度」が導入されています。

防炎物品の使用

ホテルや旅館などの火災では、火災時にカーテンやじゅうたんなどが火災を拡大する原因になります。そのため、カーテンやじゅうたんなどには防炎物品の使用が義務づけられています。

一般住宅の一部を民泊として活用する場合

以下では、建物の一部を使って民泊を実施する場合に、複合用途防火対象物として必要な対応を解説します。

  • 民泊部分が小さければ、新たな規制はかかりません。
    民泊部分が、建物全体の半分未満で50㎡以下である場合
    ⇒ 建物全体が一般住宅として取り扱われる
    ○消防用設備等の設置は不要 (ただし、全ての住宅に設置義務がある住宅用火災警報器は設置が必要。)。
    家主同居型住宅宿泊事業で宿泊室の床面積の合計が50㎡以下である場合
    ⇒建物全体が一般住宅として取り扱われる
  • 民泊部分が大きい場合、新たに設置が必要となる設備は、消火器、自動火災報知設備、誘導灯が想定されます。しかし、消火器は建物の延べ面積が150㎡未満の場合は不要であり、自動火災報知設備も、建物の延べ面積が300㎡未満の場合は民泊部分のみに設置すれば足ります。
    • 民泊部分が建物全体の半分未満で50㎡超又は建物全体の半分の場合
      ⇒ 建物全体が用途が混在する防火対象物として取り扱われる
    • 民泊部分が建物全体の半分よりも大きい場合
      ⇒ 建物全体が宿泊施設として取り扱われる

消防庁民泊1

共同住宅の一部を民泊として活用する場合

新たに設置が必要となる設備は、自動火災報知設備及び誘導灯が想定されます。なお、消火器については、 共同住宅と旅館・ホテル等の設置基準が同一であるため、新たな規制はかかりません。

  • 延べ面積が500㎡以上の場合
    ⇒民泊の有無によらず建物全体に自動火災報知設備が必要なため、新たな規制はなし。
  • 延べ面積が500㎡未満の場合
    ⇒延べ面積が300㎡以上で、民泊部分が1割を超えると、建物全体に自動火災報知設備の設置が必要。ただし、それ以外の場合、民泊部分のみの設置で可。

消防庁民泊2

必ず管轄の消防署に事前相談が必要

民泊許可を取得する際には、消防法の対応は避けて通れません。保健所への相談と並行して管轄の消防署に相談が必要です。

ただし、消防署へ相談に出向く際には消防法規に関する最低限の知識が必要です。消防署予防課の担当者から各種の「教示」を受けたにもかかわらず理解できないようでは相談の意味がありません。最近では、民泊を実施したいと言って予備知識も準備もなく相談に訪れる(ひやかしの)民泊事業者が多いため、消防法規の知識がない相談者に対してはまともに取り合ってくれないケースが増えているようです。弊所へも、「消防署へ相談に行ったが具体的な話を教えてくれなかった」という相談が増えいています。

御自身で対応することが困難な場合には、民泊専門の特定行政書士にご依頼ください。


特定行政書士 戸川大冊
small早稲田大学政治経済学部卒/立教大学大学院法務研究科修了(法務博士)
民泊許可手続の第一人者。日本全国の民泊セミナーで登壇し累計850人以上が受講。TVタックルで民泊について解説。政治法務の専門家行政書士として日本全国の政治家にクライアントが多数。 民泊を推進する日本全国の自治体政治家や国会議員にネットワークを持つ、日本で唯一の行政書士。
ビートたけしのTVタックル、NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」など多数のテレビ番組に取り上げられている。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、週刊誌などでも掲載多数。

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